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EDGE OF THIS WORLD(完結済)
待ちぼうけるもやし
坂田家の台所事情は常に苦しい。

万事屋で世話になることになり、銀時に台所を任された名前は、料理に慣れていないながらも一生懸命栄養価もあって安い食材をあれこれ工夫を重ねて料理してきた。
しかし神楽の食欲や依頼の少なさに月に何度となく食費がギリギリになってくる。
最初のうちはどうしようどうしようとパニックになっていたようだが、料理の腕が上がるにつれ、逆にそういう時になると名前の瞳が輝きだすようになった。

とある日は安い豚コマをほんのちょっぴり入れた甘辛いもやしのすき焼風の料理。
お弁当にはもやしとニラの中華炒め。
次の日はもやしの卵とじ、その横にちょこんともやしナムルが添えられていたりもする。
卵もなくなると、もやしの塩炒めがメインでどんとテーブルに大皿で出される。

名前いわく「もやしは美味しくて栄養があって何より値段が安い私たちの救世主なの!」だそうだ。
スーパーで嬉々としてもやしの袋をカゴに入れまくる名前に「お前ソレただ単に自分がもやし好きなだけだろ」と銀時が突っ込めば、
えへへと名前がはにかんで笑うものだから、名前にとことん惚れている銀時はそれ以上何も突っ込むことができず「いやー、でももやしは最高だよなァ、ウン」なんてだらしのない顔をして笑うのだ。

「きっと銀ちゃん名前にもやしにチョコレートぶっかけられてもニヤニヤ食ってるに違いないネ」
「まあ、仲が良いこと。素敵じゃない」
「なんで名前が銀ちゃんみたいなマダオとくっついたんだか。もったいないアル」
「蓼食う虫も好き好きよ神楽ちゃん。でも名前さんが幸せそうなんだからいいじゃない」

銀時と名前の可愛らしいエピソードを鬱陶しげに、しかしどことなく嬉しそうに話す神楽に妙がにっこりと微笑みかける。
名前がきてからの銀時は、一体どこに秘めていたんだろうというような柔らかな情熱を惜しみなく名前に注いでいて、
真摯に人を愛するということを間近で見ることになる幼い神楽や多感な新八に、きっと良い影響を与えるに違いないと妙は思っていた。

「毎日毎日飽きずにイチャイチャ呆れるアル。昨日だって……」

そこまで言って、神楽はお茶請けのせんべいをバリリと音を立てて齧った。
妙はそんな神楽にお茶のお代わりを出してやる。
愛を押し付けてくる迷惑なストーカーは居るが恋人の居ない妙にとって、銀時と名前の関係はとても眩しく、憧れすら感じるものだった。
「それで、昨日どんなことがあったの?」と興味津々に神楽の話に耳を傾ける。



今日のもやし、何?と銀時がのそりと台所へと入っていくのを横目で見ながら、神楽は定春のブラッシングをしていた。
依頼料が入るのは明日。今日もきっともやし料理だ。

「銀さん、今日のメニューなんかより名前さんに構いたいだけだよね」

そうポツリと零したのはテーブルを拭いていた新八だ。
お妙によく似た笑顔を浮かべ、楽しい秘密を共有しあうような表情で台所へと視線をくいと向ける。
そんな新八に神楽はウンと黙って頷くと、神楽は巨大犬用ブラシを、新八はふきんをぽいっと手から離し二人は揃って忍び足で事務所から台所へと続く廊下に出た。

「今日はね、もやしのオイスターソース炒めだよ」
「おいそれもやしなんかよりソースの値段の方が高いんじゃねェの?」
「そうかも」

台所の入り口から二人に気づかれないよう、そっと新八と神楽は揃ってひょこっと中を覗く。
もやしを洗っているらしい名前にぴったりくっついている銀時を見て、二人の顔が引きつった。

(なんで銀ちゃんあんなに名前にひっつく必要があるネ)
(完全に邪魔だよね明らかに邪魔だよね)

後姿しか見えないが、銀時が右手をシンクのふちに置き、左腕を名前の肩に回ししなだれかかるようにくっついている。
名前は動きにくそうにしながらも、ザルを二、三度振ってもやしの水気を切ると、熱して油を入れたフライパンにそのもやしを投入した。
途端に上がるおおきな音。
危ないよ、という名前の優しい声にも銀時は名前から離れようとしない。

「もう、銀さんたら」

そこで肘鉄食らわせろ!という神楽の願いは名前に届かず、名前は困ったように銀時を見上げて笑う。
その瞬間を狙ったかのように、銀時の唇が名前の唇を塞いだ。

(目が…目が腐るネ!)
(神楽ちゃんしっかり!)

覗き見している二人が悶え苦しんでいることなどつゆ知らず、銀時はソフトクリームを舐めるように名前の唇を幸せそうな顔で味わっていた。
フライパンの音が小さくなる。
銀時が片手で名前の腰を引き寄せながらもう片方の手でガスの火を切ったのだろう。



「フライパンの中で待ちぼうけ食らわされるもやしの身にもなってみろ思ったネ」
「オイスターソース炒めって美味しそうね。私も今度作ってみようかしら」
「まあ、悪くない味だったアル」
「栄養たっぷりだものね」

熱を入れすぎてシャキシャキ感の無くなってしまったもやしも。
幸せそうな光景も。
きっと神楽の栄養になっているに違いない。





ツイッターにて「待ちぼうけるもやしってタイトル思い浮かんだんだけどこんなんで書ける話なんてない」と呟いたら、
アリさんが素敵な台所での場面を呟いて下さいました。
坂田さんでバーンとイメージが溢れ、思わず書きたい!と叫んだらOKして下さったので、このお話ができあがりました。
ありがとうアリさん!
でもイメージをぶち壊していないか心配です。
しかしタイトルではじめから全てが終わっているような気もします。

目が腐る、はフレンズのフィービーのパロディです。
フィービーは叫んでました「くさるーーー!!!」って(笑)

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あきゅろす。
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