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EDGE OF THIS WORLD(完結済)
紅葉狩り

今日は皆で紅葉狩りにきていた。
美しい紅葉にはしゃぐ神楽や、それを見て微笑む新八やストーカーに見事な一撃を放つ妙から少し離れたところで、名前は一心に色付く山々を見つめていた。
銀時は黙ってそんな名前の横に立ちそっとその細い肩を抱く。

どこかで見た景色や漂ってきた香りによって、自分でも忘れかけていた記憶が突然甦ってくることがある。

「銀さん、もっとぎゅっとしてほしいな」
「……はいよ」

銀時は名前に言われるがまま綺麗に筋肉の浮かぶその右腕に力を加え、肩を抱いていた名前を更に強く腕の中に閉じ込めた。

「ありがとう」

小さな声で礼を言うと、名前は銀時の胸に頬を当て、左手を後ろからしっかり銀時の腰に手を回す。
そして何かに立ち向かっていくかのようにもう一度山々を見上げた。

目の前の深い赤をした紅葉の、その自然の圧倒的な美しさに、名前は遠い遠い世界に居る両親のことを想う。

あちらで毎年一緒に紅葉を見に行っていたなんてことはない。
ただ、母が毎年父と共にこの時期毎年旅行へ行っていたな、と思い出しただけだ。
旅行帰りに、綺麗に色付いた見事な姿のモミジ一枚とお土産を持って一人暮らしをしていた名前の家へと毎回遊びにきていたものだ。

こちらとあちらでは時間がずれているだろうが、今年も旅行へ行ったんだろうか。
こんな美しい景色を見たんだろうか。
だけどもう、自分に見せる為のモミジを選ぶこともお土産を買うこともない両親の気持ちを思うと泣きそうになった。
しかし、せっかくの楽しい遠出に一人こんな顔をしてたらいけないと、名前は唇を噛んでこの感情が溢れ零れそうになるのををぐっと堪える。

そんな名前の頭を、銀時の左手が無造作にぐしゃぐしゃと撫ぜた。
力強く、励ますように。
名前が泣きそうな瞳で銀時を見上げれば、柔和な笑みを浮かべた銀時が居た。
目が合うと頭に手を乗せたまま動くのを止めてしまったので、名前は自分の手を伸ばし銀時の手に手を重ね、動かして、と行動で示す。
ふっと笑みを深め、銀時が撫でるのを再開すると名前もようやくふわりと笑った。

「あーあー、綺麗なストレートの髪だってのにぐっちゃぐちゃになっちまったじゃねぇか」

最初に髪を乱したのは銀時だというのに、その本人が呆れたように言うものだから名前はぷっと吹き出してしまう。
銀時が手ぐしで丁寧にその髪を整えてやると、あっという間に元の状態に戻った。

そんな時、緩やかな風に飛ばされてきた一枚のモミジが銀時の肩に静かにとまる。
名前は、白い着物に赤が映えるなあと思いつつその葉をひょいと指で摘んだ。
両親が持ってきてくれていたような、小さめで見事なバランスをした美しい葉だった。

それを眺めていると、不思議な感覚が湧き上がってきた。自然と両親は今年も自分の為にモミジを選んでくれたに違いないと、ふと思ったのだ。
本物までは無理でも、綺麗だったよ、と伝えたい気持ちがすっと心に届いた気がして胸がいっぱいになる。
気のせいだといわれればそれまでだが、それでも名前は嬉しかった。
胸を曇らせているだけでは決してその気持ちに気付かなかっただろう。
銀さんありがとう、そう囁くも銀時の耳には届かなかったらしく「何か言ったか?」と優しい声が返ってくる。

「ねえ銀さん、このモミジとっても綺麗じゃない?」

指先で軸をゆっくりと回し、くるくる回るモミジを見て目を細める名前に、銀時は「へえ」と曖昧な返事を返す。
正直銀時にとってはどのモミジも同じに見えるのだ。

そんなモミジひとつでひときわ顔を輝かせる名前を締りの無い顔で愛でながら「綺麗綺麗」と適当に言う銀時だった。



短編の沖田さんの紅葉狩りのお話と繋がっております。

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あきゅろす。
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