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EDGE OF THIS WORLD(完結済)
ホットケーキ
大き目のボウルに卵を溶いて牛乳入れて、そこへホットケーキミックスを入れてざっと混ぜれば生地の完成。
火にかけたフライパンにバターを落として溶かし、一度濡れ布巾でフライパンの温度を下げてから生地を流す。

…………で、いいんだよね?

一人きりの万事屋の台所で、名前は自信なさげに腰を折りガスの火力を確認する。
名前はハッキリ言って、料理はともかくお菓子に関しては全くと言っていいほど経験が無かった。
よし、と息を吸ってから、こわごわとフライパンに生地を流し、かぱりと蓋をしてはあと息を吐く。
少し火を弱め、心配そうにフライパンを見守るその眼差しには、こちらの世界の大事な家族への想いに溢れていた。

今日はおやつにホットケーキを焼いてみましたよーう!
マジでか、名前!
よっしゃあ腹ペコアル!
名前さんが焼いたんですか?いただきまーす!

銀時と神楽と新八。三人の弾けるような笑顔を顔を頭の中に思い浮かべ、名前は一人頬を緩ませる。
喜んでくれるといいなあ。
そんなことを思いながら蓋を取り、生地の表面にできたでこぼこを確認すると、気合を入れてぎこちなくフライ返しを操りなんとかホットケーキをひっくり返す。
素朴な焼き色を見て安心した。段々といい香りが漂ってくる。
少し時間を置いてから中まで火が通ったことを確認すると、ホットケーキをお皿に置きすぐに二枚目を焼き始めた。
そして丁寧に一枚一枚積み重ねていく。

今日の依頼は屋根の修理だと聞いているので、きっとペコペコにお腹を空かせて帰ってくるだろう。
帰ってきたところにあったかいホットケーキなんかが用意されてたら、すごく喜ぶかもしれない。
そう思い、慣れないお菓子作りに精を出していたのである。
元々、一人暮らしをしていた名前だが、料理というものをあまりしたことが無かった。
必要な栄養素を補えればいいという適当な食事と外食。そして時々料理上手の親友に作ってもらっていた生活。
きちんと食事を作るようになったのはこちらの世界へきてからだった。
まさか自分がお菓子まで作るようになるなんてね…と、名前は生地をかき混ぜていた泡立て器を見つめ、ふっと笑って流しに置いた。



帰ってくると言っていた時間の何十分も前から、名前は玄関でそわそわと3人を待っていた。
やがて聞きなれた足音と賑やかな話し声に、名前はガラリと玄関の扉を開け皆を出迎える。

「おかえりなさい!」

突然飛び出してきた名前に3人は目を丸くしたが、すぐに笑顔でただいまと言ってくれた。
銀時だけは「ただいまのチュー」なんて悪戯っぽい笑顔で名前の腰を男らしい筋肉の乗った腕で抱き寄せ、軽く唇を奪っていったのだが。

銀時に肩を抱かれるように玄関に入ると「なんか甘いにおいしねぇ?」と、ふんふんと銀時が名前の髪に鼻をくっつけてきた。
「銀じゃん邪魔アル早く入るネ」と神楽に背中を蹴られ、銀時が名前から身体を離し玄関にどっかり腰をかけた。
その横をするりと神楽が靴を脱ぎ廊下を走っていく。

今日ねホットケーキ焼いたんだよ、と名前が言おうと口を開いた矢先、

「名前さん、依頼してくれた方にケーキいただいたんで皆で食べましょうね」

新八が、小さめのホールケーキが入るくらいのケーキの箱を少し上に持ち上げて無邪気に笑う。
その箱を見た名前は、一瞬だけ動きを止めたが、すぐに「やったあ」と笑顔を見せた。

「名前?」

ブーツを脱いでいた銀時が、名前の様子に何か感じてか、穏やかな瞳で名前を見上げた。
恥ずかしさに頬を染めた名前がなんでもないと小さく首を振る。
お店で売ってる綺麗で美味しいケーキをいただいたのだ。おやつにホットケーキ作ったんだ、なんて言えない。

あんな見栄えの悪いホットケーキ一緒に並べたら、美味しいケーキを素直に味わえなくなっちゃうよね…。

あのホットケーキは冷蔵庫にでも隠しておいて、明日の朝食に出すことにしようと、名前は感情を切り替えようと思考を廻らせる。
色々と考えていないと、勘の良い銀時に気付かれて気を使わせてしまう。

しかし名前のそんな心配は、神楽の「ホットケーキアル!!」という明るい声に呆気なく散った。
洗面所に手を洗いに行った時に、台所から漂うホットケーキの甘いにおいに誘われたのだろう。
きゃほー!とはち切れんばかりの笑顔で、神楽がどっしり積み重なっているホットケーキの大皿をまるで自慢するように玄関へと持ってくる。

「見るネ銀ちゃん新八!凄いアル!」
「わあ、名前さんが作ったんですか?美味しそうですね!」

二人が目をキラキラと輝かせ、心底感心した顔で名前に向かって笑う。

「あ…でも、今日はいただいた方のケーキがあるし、ホットケーキは明日の朝食にしようかなって」
「アホ言うな」

頭に銀時の大きな手が乗せられて、わしゃわしゃと髪を乱されるように撫でられる。
え、と見上げると優しく微笑む銀時と目が合った。

「こーんな美味そうなホットケーキ焼いてくれたっつーのに明日まで待てって?焦らしプレイですかオイ」
「でも、せっかくお店のケーキが……」
「冷蔵庫にブチ込んで置いときゃ明日だって食えんだろ」
「生クリームかたくなっちゃうよ」
「ハイハイ。いいからさっさとおやつの準備しろって。腹減ってんだよ」

早くしねーと名前を食っちまうぞ、と名前の唇を噛む真似をしたかと思うと、かぷりと上唇が銀時の唇で柔らかく挟まれた。
「これ冷蔵庫入れておきますねー」と新八が表情も変えずに神楽と共に二人の横をスタスタと歩いていく。

「メープルシロップは無いから蜂蜜とバターのホットケーキなんだけどいい?」
「上等上等」
「あ、そうだ、バナナとアイスクリームも乗せちゃう?」
「マジでか!豪勢だねェ」
「よーし、とことん豪勢にしちゃおう!」

名前は銀時の逞しい腕に自分の腕を絡ませると、銀時に身体を密着させながらホットケーキを作ってよかったなとしみじみ思う。
そんな名前の頭に、どこまでも愛しげに表情を緩ませた銀時の唇が、ちゅ、と押し当てられた。






いつもツイッターで仲良くしていただいているちおりさんへ捧げます。
万事屋の三人が仲良くホットケーキ食べてる話が読みたいと言ってくださったんですが、食べる前に終わってしまいましたごめんなさい。
筋肉バンザイ!

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