[携帯モード] [URL送信]

EDGE OF THIS WORLD(完結済)
刺激的な毎日です

「じゃあ銀さん、僕はそろそろ」
「おー、じゃあな」
「気をつけてね新八くん」

秋も深まり、日が暮れるのが早くなってきた今日この頃。
万事屋には相変わらずのったりとした空気が流れていた。

「帰る途中に神楽ちゃんと定春に会ったら早く帰ってくるように伝えてもらってもいい?」
「ええわかりました。それじゃあまた明日」

いつも玄関まで見送ってくれる名前に新八がぺこりとお辞儀すると、珍しいことに銀時までのっそりと名前の後ろから顔を覗かせた。

「俺もちょっくら飲みに行って来らァ」
「えっ、こんな時間から? お夕飯、銀さんの好きなおかず作ろうと思ったのに……冷蔵庫すっからかんだから、またもやし料理しか作れないけど……」
「悪ィ悪ィ、明日食うから冷蔵庫入れといてくれや」

銀時はいそいそとブーツに足を入れながら、いつものように軽い調子でそんなことを言う。
飲みに行くお金なんてないくせに、と新八は呆れた視線を銀時へと向けたが、銀時はそんな視線など屁でもないといった感じで軽く受け流す。
だいたい、冷蔵庫にもやしと卵しか残ってない状況で飲みに行くとは何事だ、と新八は思うのだが、名前が文句ひとつも言わないので新八も何も言うまいと口を閉じていた。

ブーツを履き終わるなり銀時は「じゃ、神楽頼むわ」とじっと何か言いたげに見つめてくる名前から目を逸らし気味に言った。
口元に浮かぶどうしても隠しきれない笑みを噛み殺しつつ、こほんとわざとらしく咳払いした後、銀時はわしゃわしゃと名前の頭を撫ぜる。

「うんわかった。気をつけてね、行ってらっしゃい」

そう言って、名前はほんの少しだけ寂しげに結んだ口になんとか笑顔を浮かべた。
名前のそんな顔を見てしまい、銀時は弱ったように表情をかたまらせる。
しかしそれを振り切るように「戸締りしっかりしとくんだぞ」なんて言って銀時が背を向けた瞬間、
ぐい、と名前に着物の裾を引っ張られバランスを崩した。

「……名前?」
「あ、ごめんね銀さん」

そう言いながらも、名前は裾をきゅっと握り締めて離さない。
やれやれ、と銀時はホッとしたように優しく微笑みながら名前の頭をそっと自らの胸へと抱き寄せる。

「名前も来るか?」
「神楽ちゃんが帰ってきた時に誰も居なかったらさみしがるよ」
「なあに、ぱっつぁんが残ってくれるさ」
「僕!?」
「新八くんも帰らなきゃ。お仕事入ってない時くらいお妙ちゃんと過ごしたいだろうし。私は大丈夫、すぐ神楽ちゃんも帰ってくるから」

躊躇いつつも、名前は着物の裾を握っていた手をそっと離す。
しかし今度はその手を今度は銀時の腰に巻きつけた。
駄々をこねる子供のように、しっかりと銀時を抱きしめて離さない。

「行っていいよ、銀さん。私のことなんて構わなくていいからね」
「おーい名前ちゃーん。言ってる事とやってる事が違ってんですけどー」
「そんなことないもん、早く行って。さみしくなるから」
「行くも何もこの状態じゃ動けなくね?」
「振りほどいていいんだよ。銀さんなら簡単でしょう?」

名前の腕はますますぎゅうと銀時の身体を強く抱きしめてくる。
参ったなこりゃ、とちっとも参ってない表情で嬉しそうに呟いた銀時は、
どうしていいかわからず突っ立っていた新八に目で“帰っていいぞ”と合図を送ってきた。
新八はそれでピンとくる。

(ああ、銀さん最初から飲みに行く気なんてなかったんだな)

名前にこうして引き止めてもらいたくて、飲みに行くだなんて馬鹿げた芝居を打ったに違いない。
銀時のなんとも嬉しそうに緩みきったその表情に、新八はぷっとふき出してしまいそうになるのをぐっと堪えた。
小さくペコリとお辞儀をすると、新八は静かに万事屋を後にする。

「もう限界だかんね。ったく名前、お前さんなァ……かわいいにも程があんだろーがっ!」
「へっ? ……ぎ、銀さ……ふァ、ん、っ!?」

玄関の向こうから聞こえてくる名前の甘ったるくくぐもった吐息から逃げるように、新八は真っ赤な顔して階段を急いで駆け下りていった。




[*前へ][次へ#]

17/70ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!