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EDGE OF THIS WORLD(完結済)
再会・中編

キツい顔した私とは正反対の可愛い容姿に柔らかな雰囲気。
だけどどこか頑固なところがあって、滅多なことでは泣いたことのなかった名前。
なのに今、私の目の前で名前がその大きな目からポロポロと涙を流している。

そこではたと気付いた。ここは何処。

目の前の名前の姿に驚く。
名前が着物を着たところなんて何年も前の成人式での振袖姿しか見たこと無いっていうのに、なんだか普段着でーすってな感じに着こなしちゃっていたからだ。
もじゃもじゃ頭は変な格好してるし、こっちのお嬢ちゃんなんてチャイナ服。仮装大会か何かですか。
しかもこの部屋“糖分”なんてふざけた文字がででんと掲げられている。一体何。怪しすぎるんですけど。
あ、またくらっときた。さっきから酷い貧血。
変なの、だってこの身体って幽体っていうか、肉体から離れてるってのに貧血とかおかしいよね。
「あたま、いたいの?」さっきから思考がぐるぐると混乱しまくりの私の名前を心配そうに呼ぶ名前。
その震える声に、ハッと意識が貧血やこのへんちょこりんな部屋ではなく名前に戻る。
へいき、と笑っても名前の真っ赤な瞳に安心の色は浮かばない。

「苦しくない? 痛みとかは大丈夫?」

私今、名前に名前を呼ばれて、心配されてる。
閉じたままじゃない、その瞳にしっかりと私を映し、もう二度と交わせると思ってなかった言葉を交わしてるんだ。
声が詰まる。嬉しさに胸が苦しくなって、今更ながらこの奇跡に感謝した。

名前を図々しく後ろから抱きしめていた天パ男がそっと名前の身体から腕の力を緩めた。名前が一度その男を見上げる。
その視線を真綿のように優しく受け止めた男は、綺麗な形した名前のその頭にぽんと大きな手のひらを置いてから、静かな深い眼差しで目元を緩め名前の背中をとんと押した。
わっ、と身体をよろめかせた名前が私に向かって倒れてくる。
我ながらナイスな反射神経で名前を受け止めた。
私の身体をすり抜けでもしたらどうしようかとおもったけれど、しっかり触ることができた。
真っ赤な目をした名前が、また泣きそうな顔で笑う。

「会えて嬉しい……!」
「それは私も。けど、なんなのここ、なんかおかしくない?」
「突然こんなことになっちゃってビックリしたよね。私もあの日、事故にあって死んじゃったけど、こうしてこっちで元気に生きてるから!」

……相変わらず、とんちんかんな子だ。
なに“私も”って。“死んじゃった”って。
あまりにもけろりとしてるから、少し腹が立った。
私やご両親が、名前のことをどれだけ心配してると思ってるの。今だって。

「何言ってるの。確かに事故にはあったけど、あんた死んでないじゃん」

私がそう言った瞬間、腕を組んで私たちを見つめてた天パ男と名前の顔色が変わった。
それにしてもこの部屋暖房かけ過ぎじゃない? 設定温度何度よ。暑すぎる。
長袖を肘までまくりあげる。真冬に欠かせないもこもこ靴下も脱いじゃいたいくらいだ。

「……死んで、ないって」
「ある意味奇跡だって。内臓の損傷が酷すぎて即死してもおかしくなかった。そんな状態で三日経ってる。でもどっちみち、もう……」

事故の次の日、私は名前の姉妹同然だからと名前のお母さんが家族以外面会できない病室に私も入れてくれたのだ。
突然の悪夢に疲れきったお母さんにかける言葉が見つからず、ただすやすやと幸せな夢を見ているかのような穏やかな顔して目を閉じている名前を見つめ続けた。
病院のぺらっぺらな薄い布団の下は包帯でグルグル巻き。
点滴に繋がれた腕もあちこち赤黒くて、白くてほっそりした名前の腕とは思えなかった。

「事故から三日…? うそ、だってこっちじゃもう八ヶ月は経ってるのに」
「八ヶ月?」

名前は戸惑いつつ、名前がこちらへきた時のことを話してくれた。

事故にあった十二月、天パ男(坂田銀時というらしい)と出会って助けられたこと。
二月に付き合いだしたこと。
とても大事にしてもらってること。
万事屋の皆のことをもうひとつの家族のように思ってること。
七月に一度意識が身体に戻ったけど、この坂田さんと生きることを選んだこと。
もやしが大好物になったこと。
高い料理の本を買ってもらって嬉しかったこと。
八月に坂田さんと見た花火がとても綺麗だったこと。
もう、自分は死んでいると思っていたこと。
私と再会して大泣きしたのは、私も死んでこっちにきちゃったんだと思ったかららしい。

名前が話している間中、坂田さんは黙って名前を安心させるように、励ますように、そっと名前の背中に手を当てていた。
チャイナ服のかわいこちゃんは、部屋の隅にいたでっかい犬の首に抱きつきながらこっちを心配そうに見つめてる。
私の頬に汗が伝う。この暑さは、私がさっきまで居た世界と季節が違うからか。
事故から三日。なのに名前はこっちの世界で八ヶ月もの時間を過ごしていたのだ。
時間の流れはどうなっているんだろう。
いつ亡くなってもおかしくない名前が三日も持ちこたえているのは、こっちで生きているからなのか。

「名前が幸せそうで本当によかった。けど、」
「私、てっきりもう死んでるんだと思ってた。この世界でずっと生きていけると安心しきってた」

名前が綺麗な色した唇を震わせつつ紡ぐ言葉に坂田さんの表情が辛そうに歪む。
ああこの人、名前のことすごく好きなんだ。
その表情だけでわかってしまう。名前への愛の深さが。

「向こうで身体が死んだら、ここに居る私はどうなるの?」

坂田さんの腕が再び名前を強く抱きしめた。
背の低い名前の頭に頬ずりするように動く。苦しげに目を閉じて。




続く!


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