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EDGE OF THIS WORLD(完結済)
再会・前編

どれだけ酔ってもいつまで寝転んでいても寝付けない夜というものがある。
毎夜私に腕枕をしてくれていた恋人は、喧嘩した数日前から二人で同棲しているこの家に帰ってきていない。

こんな時、いつも親友に話を聞いてもらってた。
携帯電話へと手を伸ばす。だけど電話をかけたって通じない。
どうして話せないのかと考えただけで怒りと悲しみが襲ってくるのでそのまま携帯を枕元へ置いた。
どれだけ鳴らしたって今はあの可愛らしくてちょっと緊張したような声の“もしもし?”を聞けることはない。ひょっとしたらもう、永遠に。
一緒に笑ったり、ショッピングしたり、美味しいご飯を食べに行くことは、きっともうできないだろう。
心の整理がなかなかつかない。そろそろつけなくてはならないというのに。
あの子の前に立っても、もうあの深く澄んだ綺麗な瞳に私が映ることは無いなんて。
信じられない。嘘だって言って。許すから。
今すぐ私の目の前に来てこんなこと冗談だよって言ってあの柔らかな笑顔を見せてよ。

小学校からの親友だった。
一緒に居るだけで元気をもらえた。癒された。
どうしてあんなことになってしまったんだろう。
あの子は何も悪いことはしていないのに。

ぐるぐると重苦しいことばかり考えていたら、いきなりずんと身体が重くなった。
身体は物凄く重い力で抑えられていて、もがいてそれから逃れようとしたらふわりと身体が浮き上がった。
その光景に驚愕する。自分の身体から起き上がっていたのだから。
なにこれ、幽体離脱とかいうやつですか!?
いくら自分の身体に戻ろうとしたところで、間抜けな顔して目を閉じている自分には触ることが出来ず、うええええ、と困りきってしまった。
だけどふっと、あの子もこんな状態だったりするのかな、と思った。
魂だけがゆらゆらとさ迷っているのだったら、今の私の状態なら話ができるかもしれない。

ねえ名前、私、名前に会いたいよ。

そう思った瞬間、目を突き刺すほどの眩しい光に襲われた。




▽▽▽▽▽



「銀ちゃん、名前、依頼人ほったらかして何やってるアルか」

散歩帰りの神楽が銀時と名前の居る台所へと顔を出し、開口一番にそう言った。
おかえりー、とのんびりとした名前の声に、神楽は思い出したように「ただいまアル」と笑う。

「オイ神楽、依頼人って何のこった」
「神楽ちゃん、今日は誰も依頼には来てないよ。あ、今日も、か。それよりねえ見て。お登勢さんがいっぱい梨をくれたんだよ」

名前はにこにこと笑いながら神楽を手招きする。
作業台の上に置かれた皿には梨がこんもりと盛られていた。

「銀さんが梨むいてくれてるの。神楽ちゃんも食べるよね」
「名前、もういっこ口に入れてくんね? 俺、手ェ塞がってっから」

銀時がするすると皮を剥きつつ名前に向かってあーんと口を開ける。
名前はそんな風に甘えてくる銀時に嬉しそうに笑いながら「どうぞ」と小さ目の梨を楊枝で刺して銀時の口へと運んだ。
みずみずしい梨から果汁が流れ、名前の手も濡らす。銀時はべろりと当然のようにそれを舐め取ると名前の頬にぽっと赤みが差した。

「こらっ、銀さんったら」

とろけそうな声で、笑顔で、名前が笑う。
いつもだったらこんな光景にケッなどと舌打ちしてとっとと背を向けるか、梨だけ頂戴して勝手にやってろと出て行くかのどちからだが今日は違った。

「銀ちゃん、依頼人じゃないならあれは誰アルか」
「はァ? だれって誰だ。あれって何だよ」
「ソファの上で寝てる女のことネ!」

神楽の言葉に銀時が眉を寄せる。
新八はお通のコンサートだかで休みを取っていて元々不在。そして先程神楽が定春と散歩に行ってから、万事屋には銀時と名前の二人きりだった。
玄関と台所は近い。客が来て気付かないなんてことはありえない。
三人の間に沈黙と緊張が走る。
名前が食べかけの梨を置き、そっと銀時に身体を寄せてきた。
怯えているという感じではないが、何があろうと銀時の傍にいれば安心なのだろう。
信頼されていることが伝わってきた銀時が、名前を安心させる為わざとおどけたようにニカッと笑う。

「銀さんに任せなさい」

銀時の広い背中に名前と神楽がくっつくようにして、三人は事務所をそっと覗き込むと、確かに人が居た。
出入り口に足を向け、横になっている女性が。
いきなり襲い掛かってくることはなさそうだと、銀時がずかずかと歩いていく。続いて名前と神楽も。

「オイ、ちょっとそこの人、ここは無料宿泊所じゃねーんだけど。起きてくださいコノヤロー」

女の身体を強引に揺する銀時の後ろから、名前がひょこっと顔をだした。

「うそ……!」

ソファで寝ている女の顔を見て名前の顔色がみるみる変わる。

「あン? 名前の知り合い?」
「うん、知り合いっていうか、友達。ううん、親友…………」
「へー、いつの間に親友なんてもんこさえてたんだ名前。しっかしよ、そんなに仲いい友達ができたってんなら俺にも話してくれたっていいじゃねーか水くさい」
「違うの、こっちでできた親友じゃないの」

口元を押さえる名前の手が震えていた。
銀時はそれを見て表情を引き締め目を見開く。

「あっちの世界の、か」

銀時の言葉に名前がこくりと頷く。
でもどうして、とふるふると目の前の光景を否定するかのように小さく首を振りながら後ずさりする。
そんな名前の顔色が今にも倒れそうなほど真っ青で、銀時は細い肩をその腕で支えてやった。
張り詰めた空間の中、うーん、と大きく伸びをして女が目を開ける。
名前が一歩足を踏み出そうとしたところで、何故か銀時が名前の身体を後ろから抱きしめてきた。
え、と名前が銀時を振り返れば、まるで俺を置いていかないでくれ、と怯えているような瞳。
そんな顔をされたら名前は一歩も動けない。

「え、え、え、名前?名前だよねっ!やだ、本当に!?」

部屋着であろう、たらんとしたワンピースを着た美人だった。
ハッキリとした彫りの深い気の強そうな顔が名前の姿にパッと輝く。
そして次の瞬間にその名前の身体を抱きしめている銀時の姿に不快そうに眉を寄せた。
女が、こうしちゃいられないというように勢いよくソファからその身を起こした。
貧血だろうか、一瞬だけくらりと身体が揺れ顔をしかめたが、すぐにぶるぶると頭を振って立ち上がってくる。

「ちょっとそこのもじゃもじゃ頭、名前から手を離して! 何やってるのアンタ、名前が怯えてるじゃない!」

どすどすと銀時と名前に近寄り銀時を睨みつける。
その勢いに、銀時がたじろいだ。

「…名前ちゃん、ずいぶんと元気の良いダチ持ってたんだな」
「すっげーな。私このネーちゃん嫌いじゃないアル」

銀時の腕の中で、名前だけが身体を震わせ泣いていた。



続く!


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あきゅろす。
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