silent child 9 そう心配になったけど……、どうやらちゃんと届いたみたい。 先生の目から、次々と涙が零れ落ちて、唇がふるふると震えだした。 そして――、 「高木ぃーーっ!! 高木ぃーーっ!!」 と、名前を連呼されながら、先生の大きな胸の中へと、抱き締められた。 温かくて、気持ちが良かった。 お父さんが居たとしたら、こんな感じなのかもしれない。 やっぱり先生のこと――、大好きかも。 皆との別れも十分に堪能した後、廊下に出れば、僕のお母さんと大和のお母さんが一緒に居た。 二人も実は、幼馴染。 仲の良いお母さん達を見ていて、いつも思うんだ。お母さん達のように、僕も大和とずっと一緒に居たいなって。 二人に近寄れば、お母さんは直ぐに僕に気付いてくれた。 化粧をして、スレンダーなスーツを着こなすお母さんは、いつもよりもずっと綺麗。微笑む顔も、いつもよりもずっと優しく見えた。 「憲太。カッコよかったわよ。」 どこを指して、そう言ったんだろう。 皆よりも俯き加減で、体育館へと入場した僕? 皆よりも時間をかけて、漸く返事をした僕? 皆よりもへっぴり腰で、ステージに上った僕? それとも、最後に思いっきり“さようなら”が言えた僕? どれかは分からない。 でも――、褒められたことが嬉しかった。 僕の顔は、また真っ赤になった。 「憲太君ってば、昔のお母さんにそっくりよ!」 (そっくり?) 大和のお母さんがそう言って、笑っていた。 僕が唯一そっくりだと思ったのは、あの日盗み聞きしてしまった時のお母さん。 お母さんと仲良しの大和のお母さんは、あの本当のお母さんの姿を知っているんだなと、この時悟った。 「よっ、母さん! 憲太のお母さん、こんにちは!」 大和も直ぐにやって来た。いつものように、ニコニコと満面の笑みで。 「よっ、じゃないわよ。」 「大和君、こんにちは。」 お母さんに向かって、軽々しく「よっ」とか言えちゃう大和が羨ましい。怒られるかもしれないけど……、僕もいつか、そんな軽口をお母さんにたたいてみたいな、とか本気で思っていたりもする。 「大和と憲太君、帰りはどうする? 私達、車で来たから、一緒に乗っていってもいいわよ?」 大和のお母さんがそう聞いてくる。 そんなの答えは決まっている。 僕と大和は顔を見合わせた。 「俺達、歩いて帰るよ! なっ、憲太!」 (もちろん!) 僕は、大和に力強く頷いた。 この中学校へと、大和と一緒に何回も登下校したけれど、それも今日で最後なんだ。 最後に、じっくりと味わっておきたい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |