silent child
20
僕は壁に凭れ掛かったまま、その様子をぼぅっと見つめていた。
突然、石川君はドラムスティックを置いて、立ち上がった。睨みつけながら、僕の目の前までやってくる。
「くそっ! イラつくぜっ! てめぇのこと、やっぱり気にくわねぇ……。いつまでたってもダンマリかましやがってよぉ。」
頭1つ分大きい石川君に、間近で見下ろされて、僕は益々恐くなった。
でも――、僕にはどうすることも出来ない。
恐いのに、逃げたいのに……、声を出すことも、体を動かすことも……、何も出来なかった。
ダンッ!
肩を強く押さえつけられて、また一瞬息が詰まる。石川君の吊り上った目が、直ぐ目の前に見える。
(痛い……、それに……、恐い……っ)
「ち……っ。くそっ! 俺はなっ、お前みてぇなのが大嫌いなんだよっ!」
僕が黙ったままだったことで、石川君の怒りを更に加熱させてしまったみたい。
僕の顔は、いつの間にか下を向いていた。
「おいっ! 何目ぇ逸らしてんだ、この野郎ッ! 誰も助けてくりゃしねぇんだよっ!」
顎を乱暴に掴まれ、無理やり上を向かされる。見たくないのに……、石川君の恐い顔が勝手に目に映る。
「なぁ、高木クンよぉ? いつでも助けてもらえるなんて思ってたら、大間違いだし? 今は、マサキも先生もいねぇーし、頼りのヤマトクンもいやしねぇーんだ。俺は、お前を殴ることだって、簡単に出来るんだぜぇ?」
石川君は、空いている右手で僕の頬を、リハーサルしているかのようにペチペチと叩いてくる。
(恐い……っ、恐いっ!)
ここには石川君しか居ない。
ここでは石川君の声しか聞こえない。
誰も……、助けてくれないっ。
僕の体は、いつの間にか震えていた。
「ヤマトォー、ヤマトォー、助けてぇー、ってか? つぅーか、お前等ってさぁ、いつも二人でベタベタしてるよなぁ?」
(な……に……?)
さっきまで怒りを全面に出していた石川君。なのに今は……、笑っていた。口角を片方だけ吊り上げ、僕を馬鹿にするかのように……。
「お前等ってさぁ……、もしかしてそうなわけ?なぁ……? そうなんだろ?」
(何……が……?)
何を言っているのか分からなくたって、石川君の態度から、僕を馬鹿にしてるってことだけは分かる。
石川君は、僕に一層顔を近づけて、こう言った。
「お前等って、おホモダチなんだろ?」
僕は意味を理解するのに、数秒かかった。
理解した瞬間――、体の中から熱が沸き出すのを感じた。目の奥が、喉が、頬が……、あっという間に熱くなる。
(違うっ! 僕と大和はそんなんじゃないっ!)
手に、目に、喉に……、ぎゅっと力が入る。
「高木クンとヤマトクンはー、お友達じゃなくて、おホモダチーってな。」
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