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silent child


 ご飯を食べ終わり、学校へ行く準備も全て終わった。

 もう直ぐ、家を出る時間。
 玄関に座り、靴をゆっくりと履く。
 その間ずっと、お母さんの視線を、背中に感じていた。

 ゆっくりとお母さんの方へと振り返れば、視線が重なる。

「それじゃぁ、」
「憲太、ちょっと待って。」
 行ってきます、と続けようとしたところで、お母さんに遮られた。

 次の瞬間には、頭にふんわりとした感触。

 お母さんが、僕の髪を触っていた。
(こういうのって、いつぶりだろう)
 直ぐ目の前には、優しく微笑むお母さんの顔。
 何だか照れくさくって、あっという間に顔が真っ赤になった。

「はい、これで大丈夫。それじゃ、行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」

 くるりと向きを変え、玄関の扉に手をかける。
 この扉を潜って出て、次に潜って戻る時にはもう、中学生の僕ではなくなっていると思うと、何だか不思議な気持ちだった。

ガチャッ
 扉を開けた瞬間に飛び込む風。
 朝はまだ少し、肌寒い。


 門を出れば、いつも通り大和が居た。

「おはよう。」
「おはよ!」
 卒業式だっていうのに、相変わらず大和の髪はツンツンに立ててあったから、ちょっと笑えた。
 だけど、そんなとこが大和らしいし、カッコイイと思う。


 終に卒業式だね、とか、寂しくなるね、とか話していたら、あっという間に学校に着いてしまった。
(今日で、最後か……)
 楽しい思い出や、嫌な思い出。校舎を見れば、次々と蘇ってくる。


「見ろよ! 桜、ちょっとは咲いたんだぜ?」

 僕達の中学校には、校門から校舎までの道に、桜の木が数本植えられている。
 殆どがまだ蕾なんだけど、大和の言う通り、少しだけ咲いている花もあった。

「卒業式だしね。ちょっとは咲いて良かったね。」
「憲太、コレなんか綺麗に咲いてる!」
 憲太が指差したのは、綺麗な桃色の花びらが、大きく目一杯に開いている桜の花。

 ピーちゃんを思い出した。
 あっ君を思い出した。
 小学生の僕を思い出した。

 あの頃から、喋れないままで居る僕。
――今日の卒業式を機に、古い僕も、卒業出来たらいいな。


 靴を履き替え、教室へと向かう。
 大和と一緒のクラスで過ごすのは、これで最後。

ガラガラ
「おはよー!」
 元気に挨拶しながら入っていく大和に、僕も続く。

 聞こえるのは――、挨拶を返すクラスメイトの声。
 それから……、
「高木っ! 良かった、今日来れたんだ!」
「よく来たっ、高木っ!!」
「高木君っ、元気になって嬉しいっ! これで皆揃って卒業出来るねっ!」
 僕の登校を喜ぶ声。


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あきゅろす。
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