silent child 16 冬ってことを、感じさせない程の熱を感じる。ライトの熱に、観客の熱。 演奏した後は、きっともっと熱くなる。 『こんばんはーっ!! noisy boysですっ!!』 ワァーーーーッ!! 直ぐにマサキのMCが始まった。今日の観客は、皆が皆、僕達のことを知っているわけじゃないから、自己紹介から入る。 何だか初めてのライブを思い出した。 マサキの話している言葉さえも頭に入らない程、緊張していたあの頃。 今は、少しだけど余裕がある。 ――僕もちょっとは成長したのかな? メンバーが次々に自己紹介していく中、次第に慣れてくる目で、沢山の人影の中からカレンを探す。 (居た、カレンだ) 最前列、かなり左寄りの位置。僕から割りと近い位置。 僕のためだとしたら、かなり嬉しい。 『次は、ギターのケンタッ!! 普段は大人しく見えるんだけど、ギターを持つと豹変しちゃうんだぜっ!! なっ? ケンタッ!!』 皆の場合は、振られたら答えることになっているんだけど、僕には喋ることが出来ない。 いつもなら、流してもらうんだけど……。 (カレンのためにも……、今日は頑張りたい!) 声を出せない代わりに……、思い切ってアドリブで答えてみせる。 ジャーアジャーーーン ジャーアジャーーーン ジャジャジャジャジャジャ ジャジャジャジャジャジャ チュイチュイチュイチュイーーーン!! ワァーーーーッ!! ヒューヒューッ!! 『ほらなっ!! ギターを持たせば、一番騒がしいのはコイツなんだっ!!』 予定外だったのに、マサキは自然に繋げてくれた。観客も盛り上がってくれたみたいで、嬉しかった。 (頑張って……、良かった) 実はさっきのはカレンへのメッセージ。二人で決めた音階の暗号。 アドリブの一部に“がんばる”の音を入れたんだ。この意味を知るのは、僕とカレンだけ。 カレンの方を見れば、親指を立てていた。 どうやら、ちゃんと伝わったみたい。 『まず一曲目は、noisy boysの始まりの曲でもあり、あの洋楽の定番ナンバー! 俺等にとっても思い出深い曲です!!』 いつも一曲目は、この曲って決めている。僕達が仲間になって初めて演奏した曲。この曲を演奏する度に、始まりの僕達を思い出して、些細な上達を噛み締むことが出来る。 この曲の始まりは――、僕の音。 マサキ、大和、ダイキに顔を合わせ、皆からOKの合図をもらう。 僕の相棒を見つめ、がんばれのピックを掴む。そして、“がんばれ”の気持ちを込めて、右手を振り下ろす。 (カレンッ! がんばれっ!!) ジャンッジャンッジャーン, ジャッ,ジャッ,ジャッジャーン! 聞こえるのは――、僕の音。 こうして、ライブが始まった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |