silent child
12
「「……。」」
お互いに無言で歩く。
聞こえるのは――、傘に当たる雨の音。
折角のライブだから、気持ちよくやりたいのにな。だいたい、このままライブになったら、また大失敗をやらかしそうだ。
いつもは、ライブの前日って言えば、テンションなんて、ぐんぐん上がるはずなのに……、今日はあんまり上がらない。
下がるテンションにつられて、僕の頭まで下がっていく。
やつ当たりで、足元に見つけた小石を蹴ってみても、あんまり飛ばなかった。しかも、靴が余計に濡れてしまったせいで、益々気分が盛り下がる。
(こんな気分になるのは、元はと言えば大和のせいじゃんか)
心の中で、愚痴を零しながら、大和の横顔を覗きみる。
そうしたら……、いつも上ばっか見ている大和が、僕みたいに下を向いていたから驚いた。
「好きなのか……?」
(は……?)
急に大和が喋り出したと思ったら、飛び出したのは、予想もしていなかった言葉。
大和はそのまま下を向いていた。
「何が?」
(ライブが?それともギターが、とか?)
僕は、大和を見つめたまま聞き返した。
「だから……、あの子。」
「あの子?」
いつもはっきり言う大和が、濁しているかのような……、珍しい喋り方をする。
「だからっ、そのカレンって子だよっ!」
(やっぱり、怒ってるんじゃん)
下を向いていたはずの大和が、怒鳴りながら、急にこっちを向いた。大和と、ばちっと目が合う。
(しかも、何か勘違いされてるし)
「カレンを好きかって?そりゃ、好きだよ。」
僕がそう言えば、大和の足が止まる。だから、僕も足を止める。
大和は何だか、よく分からない顔をしていた。
「初めての女友達だしさ。」
大和がどうしてそんな顔しているのか不思議に思いながらも、僕は続ける。
「友達……?」
「そう、友達。」
「でも、付き合いたいとか、そういう気持ち、あるんじゃねぇの?」
「ないない。僕、まだそういうのよく分からないし。カレンも他に好きな人いるし。」
「何だよーっ! 驚かせんなよなぁーっ!!」
大和が勝手に勘違いしたくせに、僕に喚かれても困る。
暫く大和は「あぁー、もう、何だよ!」とか、独り言をぶつぶつ言いながら、自分の髪をぐしゃぐしゃにかき回していた。
それでも、声の調子も戻っていて、機嫌も直ったみたいだから、とりあえずは良かった。
――もしかしたら大和は……、僕に彼女とか出来たら寂しいな、とか思ったのかもしれない。
僕だって、大和に彼女が出来たら寂しいなって思うから、きっと大和も同じ。
だって――、ずっと一緒に居るのが当たり前だったのに……、急に彼女に、大和を取られていっちゃったとしたら、何だか面白くないから。
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