silent child
11
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あんなにドギマギしながら、カレンにメールを送っていた僕だけど、今では慣れっ子。お互いにタメ口を使う程まで慣れてきた。
メールでよく、頑張ったこと報告会をやっていたりする。
例えばカレン。
「黒い服しかもっていなかったけど、初めて赤い服を買ったよ。」
「好きな子に、おはようと挨拶をした。」
「前髪を1ミリだけ切ってみた。」
ちなみに僕。
「なるべく意識して、一日中、上を向いていた。」
「すれ違った知らない人に、さり気に会釈をしてみた。」
「お母さんに、自分から話しかけた。」
他の人達からしたら、それが何だって思うかもしれない。
それでも、僕達にとっては頑張ったこと。些細な変化だって、頑張ったことには違いないんだ。
その内――、電話に挑戦することになった。
やっぱり、僕にはまだ、喋ることは出来ない。
だから、電話をするって言っても、正確に言えば、普通の会話じゃないんだ。
声を出せない僕は、代わりに相棒の音を出す。
小さい頃から、ピアノを習っているカレンには、絶対音感に近いものがあるらしい。
それを利用して、僕達は二人だけの暗号を作った。
僕は考えながら音を出して、カレンは音を聞いて言葉を考える。音での会話。これが今の僕に出来る、精一杯。
*****
僕達が、オリジナル曲を初披露するライブは、クリスマスの一週間前。今日は、その前日。
noisy boysの始まりの場所で、最後の練習をした。
「僕……、皆にお願いがあるんだ。」
「衣装なら、変えてやらないからなっ!!」
「はっ? ナンだよ。」
「何? 憲太?」
僕は皆に、あることをお願いした。
ダメだとか言われるかなって不安だったけど……、皆、快くOKしてくれたから良かった。
今日は、生憎の雨。
いつもとは違って、傘を差して歩いて帰る。
背中には、重たい相棒。隣には大和。
真っ暗の空をちらっと見ながら、明日は晴れるといいな、とか考えながら黙々と歩く。
最近の大和は、なぜだか機嫌が悪いような気がする。
さっきお願いした時も、今だって、どこかむすっとしている。表情には出ていないけど、長年一緒に居る僕には分かるんだ。
「大和……。何か、怒ってるの?」
機嫌の悪いままライブになったらヤダなと思い、大和に話しかける。
「べつに。怒ってねぇーよ。」
(嘘つき)
声だけでも分かる。ちょっと硬くなって、ちょっと低くなる声は、機嫌が悪い時の声。
「ふーん。」
逆に、今の僕の声も、大和にはどんな時の声か分かるはず。
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