silent child
3
(えぇっ!! ぼっ、僕ーー?!)
驚きのあまり、目を見開いてしまった。僕の胸に、ぎゅっと女の子の手を押し付けられ、ドギマギする。
「よ、読んで……、下さいっ。」
女の子の手から力が抜けていくのを感じ、落としてはいけないと思って、僕は慌てて手紙を掴んだ。
そうしている間に、女の子は方向転換して、
「さ、さよなら……っ。」
と言い残し、走り去っていった。
*****
「ケ・ン・タ! 俺、見ちゃったもんね〜!!
さっき女の子といちゃいちゃしてただろ〜。ケンタも中々やるねぇ、このこのぉ〜。」
(げっ、見られたのか……)
狭いっていうのに、マサキが体を動かして、わき腹を突いてくる。なんだか余計に恥ずかしくなってきて、顔がどんどん熱くなっていく。
後部座席に、ぎゅうぎゅうと押し込められている僕達四人。しかも、楽器も一緒だから余計に狭いし苦しい。
もちろんマサキの今の発言は、直ぐ近くに居る二人の耳にも入るわけで……、一斉に僕へと視線が集まった。
「憲太にも、ついにファンが……。」
なぜか落ち込んだかのような声に、ショックを受けたかのような顔をする大和。
「はっ? マジかよ?」
鼻で笑い、そんなわけねぇだろといった感じの目を向けるダイキ。
僕だって信じられないって思ったけど……、二人のリアクションはちょっと失礼だと思う。
(もう少し、喜んでくれたっていいじゃんか)
そう言ってやりたいけど、マコトさん達が居る手前、喋ることが出来ない。
「マジも大マジだって! なっ、ケンタッ! 戦利品をこの二人に見せちゃれ!!」
いつもはマサキの悪ノリに付き合ったりしないんだけど……、何だか悔しかったから、今日はのってみちゃったりする。
車内が狭くて取り出すのが大変なのに、もぞもぞと体を動かし、わざわざギターケースのポケットから手紙を取り出した。
(可愛いなぁ)
明るい所で初めて手紙を見て、感動した。
ピンクの便箋に、丸っこい文字で「ケンタ君へ」と書いてあり、裏にはクマのシールが貼ってある。あまりの可愛さに、僕の顔も勝手ににやけてくる。
「憲太っ、何にやけてんだよっ!」
(大和こそ、何拗ねてるの?)
大和の方が、沢山ファンレターもらっているくせに……、変な大和。
「あぁ! やっぱり!! 暗くてよく見えなかったけど、その子、俺と同中だしっ!」
マサキは、封筒裏の差出人の名前を指差しながらそう言った。
そこに書いてある名前は、カレン。
「ある意味その子、ちょー有名でさっ! 通称、暖簾(ノレン)ちゃん!! 学年で知らない奴いねぇと思うよっ!」
笑いながら言うマサキ。
僕はずきっと胸が痛んで、笑みが引っ込んだ。
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