[携帯モード] [URL送信]

silent child
13

*****



 お母さんは、本当の僕を知らない。
 お母さんが何でも知っているのは、お母さんのさせたい僕だったから。

 僕はお母さんのことを何でも知っていると思っていた。だけど、それは本当のお母さんじゃなかった。
 本当のお母さんを、僕は何も知らない。

――お母さんは本当の僕を知らないし、僕も本当のお母さんを知らない。

 なんだかお互い様だなって思った。


「憲太……っ? ここで何をしているの?」
 お母さんの少し驚いた声が聞こえた。

 僕が今居るのは――、校門の前。
 自転車をひいたお母さんがやって来た。

「お母さんを……、迎えに……。」
 僕も自転車をひいて、お母さんの隣に並ぶ。こんなことをするのは久しぶりで……、なんだか不思議な気分だった。

「寒かったでしょ? それに沢山待ったでしょ? ごめんなさいね。」
 今日のお母さんは、いつもとちょっと違う気がした。
(今のお母さんは、どっちのお母さんなのかな?)

「ううん。あのね……、僕……。」
 言いたいことが沢山あって、何を言えばいいか分からなかった。
 だから――、とりあえず大切な5文字を伝えた。


「ありがとう。」
(僕を生んでくれて……)
(僕を育ててくれて……)
(僕を想ってくれて……)


 色々な気持ちを込めて、たった一言だけ伝えた。それでも……、何となく満足した気持ちになれたから不思議。

 自転車に乗らないまま、二人でゆっくりと自転車をひきながら歩く。
 この時が、何だか早く終わってしまうのは勿体無い気がして……僕は、いつもよりもわざとゆっくり歩いた。
 お母さんもそれに合わせてくれる。
 もしかしたら、お母さんも、僕と同じ気持ちなのかもしれない。
 これは僕の唯の願望だけど……。


――お母さんは、僕を知らない。
 そして……。
――僕は、お母さんを知らない。


 学校側からしたら、お騒がせ親子だったかもしれないけど……、今日って言う日があって良かったなって思う。
 あんなに今日になるのが嫌だって思っていたのに、今はすっかり間逆のことを思っている僕。何だかおかしくて笑っちゃう。


 これから少しずつ、お互いがお互いのことを知っていけたらいいね。


(ね? お母さん?)





第4話 --完--





[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!