silent child
13
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お母さんは、本当の僕を知らない。
お母さんが何でも知っているのは、お母さんのさせたい僕だったから。
僕はお母さんのことを何でも知っていると思っていた。だけど、それは本当のお母さんじゃなかった。
本当のお母さんを、僕は何も知らない。
――お母さんは本当の僕を知らないし、僕も本当のお母さんを知らない。
なんだかお互い様だなって思った。
「憲太……っ? ここで何をしているの?」
お母さんの少し驚いた声が聞こえた。
僕が今居るのは――、校門の前。
自転車をひいたお母さんがやって来た。
「お母さんを……、迎えに……。」
僕も自転車をひいて、お母さんの隣に並ぶ。こんなことをするのは久しぶりで……、なんだか不思議な気分だった。
「寒かったでしょ? それに沢山待ったでしょ? ごめんなさいね。」
今日のお母さんは、いつもとちょっと違う気がした。
(今のお母さんは、どっちのお母さんなのかな?)
「ううん。あのね……、僕……。」
言いたいことが沢山あって、何を言えばいいか分からなかった。
だから――、とりあえず大切な5文字を伝えた。
「ありがとう。」
(僕を生んでくれて……)
(僕を育ててくれて……)
(僕を想ってくれて……)
色々な気持ちを込めて、たった一言だけ伝えた。それでも……、何となく満足した気持ちになれたから不思議。
自転車に乗らないまま、二人でゆっくりと自転車をひきながら歩く。
この時が、何だか早く終わってしまうのは勿体無い気がして……僕は、いつもよりもわざとゆっくり歩いた。
お母さんもそれに合わせてくれる。
もしかしたら、お母さんも、僕と同じ気持ちなのかもしれない。
これは僕の唯の願望だけど……。
――お母さんは、僕を知らない。
そして……。
――僕は、お母さんを知らない。
学校側からしたら、お騒がせ親子だったかもしれないけど……、今日って言う日があって良かったなって思う。
あんなに今日になるのが嫌だって思っていたのに、今はすっかり間逆のことを思っている僕。何だかおかしくて笑っちゃう。
これから少しずつ、お互いがお互いのことを知っていけたらいいね。
(ね? お母さん?)
第4話 --完--
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