silent child
12
(本当の僕……)
――本当の僕って、どこまでが本当の僕なんだろう。
喋れない僕は……、皆の前で動けなくなっちゃう僕は……、本当の僕に入るのかな。
「私は……っ、知っています……っ。」
お母さんの今までに聞いたことのないような弱弱しい声が聞こえて、ドキッとした。
「私は……っ、知っているんです。憲太を知らないってことを……、私が憲太をおさえつけちゃっているってことを……、憲太が誤解されてしまうのは、私が悪いってこと、ちゃんと知っているんです……っ。」
お母さんの喋っている内容よりも、お母さんの喋り方に驚いた。今までこんな喋り方をするお母さんを見たことは無かったから。
お母さんはいつでも自信に満ち溢れていて、はきはきしているはずだった。
だけど――、今はまるで……。
「知っていたけど……っ、私のようになって欲しくなかったんですっ。中卒で学も無くて、碌な仕事にも就けないような……、下らない男に引っかかって捨てられるような……、こんな人生おくって欲しくないんです。
だから習い事も沢山して欲しかったし、いい成績もとって欲しかった。何でも出来る子になって、いい人生をおくって欲しかったんです。」
お母さんのことは、何でも知っていると思っていた僕。
だけど、お母さんがそんなこと考えていたなんて知らなかった。
「私はね、本当は泣いちゃいけないんです。
だって――、私はちっとも可哀相じゃないから……っ。可哀相なのは、憲太。私みたいな母親をもった憲太。私のせいで父親がいない憲太。私におさえつけられてばかりの憲太。
だから、私は泣いちゃいけないんですっ。」
――僕は、お母さんをちっとも知らなかった。
本当のお母さんを……。
本当のお母さんは――、こんなにも僕に“そっくり”。まるで、僕みたいだった。
違う……、僕がお母さんみたいなのかもしれない。
聞えるのは――、矢口先生の声と、“本当のお母さん”の声。
小さい大和の声が聞こえた。
「俺達、先に行くな。がんばれよ。」
大和は僕の頭をぽんと叩いて行った。
「がんばれ。」
マサキも僕の頭をぽんと叩いて行った。
「ちっ……。」
ダイキは僕の頭をばしっと叩いて行った。
気のすむまで、下を向いて、顔を真っ赤にして、二人の声を聞いていた。
二人の話も終わりそうになってきて、僕もそろそろ行こうと思って、前を向いたら……、小石が並んでいた。
小石を並べて作った4文字。
――がんばれ。
ダイキが丁度座っていたあたり。きっとこれがダイキの精一杯なんだなって思って、笑みが漏れた。
(がんばるよ)
ダイキの優しさの証拠を写メに撮ってから、その場を離れた。
僕には、したいことがあったから。
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