silent child
11
(どういう……意味?)
僕には分からなかった。矢口先生も、僕のことをそう言うものだと思っていたから。
「あなた達教師が、皆そう言うんだからっ、そう思うしかないじゃないっ!!」
(どういう……意味?)
僕にはまた分からなかった。お母さんはまるで、そう思っていないけど、そう思うしかないんだって言ったように聞えたから。そんなわけないのに……。
「憲太君、家では違うんでしょう?
私はあの子のことを、消極的だとも思っていないし、内向的だとも思っていませんよ。」
(嘘……、なんで……?)
「自分からギターをやりたいんだと言ったそうですね? 自分からライブに出たいとも。今だって、バンド活動を続けているんでしょう?
むしろ“積極的”ではありませんか。消極的で内向的な子には、そんなことは出来ませんからね。」
(なんで……っ?)
「なんで……っ? なんで先生がそんなことを、ご存知なんですかっ?」
僕のなんでと、お母さんのなんでが重なった。
「日記ですよ。予定帳の下にあるたったの三行ですが。面白いくらい憲太君のことが見えてきますよ。4月から今までの日記のコピーがここにあります。お母さんもご覧になりますか?」
大嫌いな矢口先生。
一番最悪だと思った矢口先生。
それなのに――、僕のことを、こんなにも理解してくれている。僕のことを、こんなにも見ていてくれた。
僕はそんな矢口先生のことを……、ちっとも知らなかった。
僕に厳しい矢口先生。
だけど――、多分もう大嫌いだなんて思えない。最悪な先生だなんて思えない。厳しくて、恐くて、優しくなんかないけれど……、きっと最後には、好きになるかもしれない。僕には何となく、そんな予感がした。
「お母さんはどれくらい憲太君のことを知っていますか? 例えば、憲太君が今、必死に練習している曲の名前を知っていますか?」
「私はっ、それくらい……っ。」
(知るはずない……)
お母さんはそんなの知らない。お母さんが何でも知っているのは、お母さんのさせたい僕のことだけだから。
「憲太君の日記ね、最初は淡々としていたんですよ。今日はこの習い事に行って、何をしました、といった風にね。
ですけどね、途中から変わるんですよ。多分ギターと出会ってからです。
これからしたいことや、目標や、感動したこと、そして友達のこと。登場人物が“僕”一人しか居なかったのに、今では沢山出てくるんです。不思議ですよね。」
――僕、少しは変われているのかな?
ちょっと前までの僕は、ちっとも変われないって、よく泣いていたっけ。
矢口先生の言葉で、急にそんなことを思い出した。
「このコピー全部、お母さんに差し上げます。
“本当の憲太君”のこと、よく知ってあげて下さい。」
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