silent child 5 午後3時――。 僕はスタジオに居た。仲間と一緒に。 聞こえるのは――、noisy boysの音。 でも――、 「あっ。」 (また、やっちゃった……) さっきから僕は失敗ばかり。 曲が始まったことに気付けなくて、一人だけ入れなかったり……、繰り返しを忘れて、一人だけ違うところを演奏し始めちゃったり……。 自分でも酷すぎると思う。 「おいっ、くそっ!! またかよっ!!」 終に、ダイキに怒鳴られた。 ダイキにしては、我慢してくれた方なんだと思う。 目を吊り上げているダイキを、どこか人事のようにぼんやりと見ていたら、ダイキが急に立ち上がった。 「おいおい、大輝ぃー?」 「ダイキッ、落ち着けって。」 ダイキを宥めようとする二人の声が聞こえる。それでもお構いなしにダイキは僕のところまでやってきた。 そして、僕の胸倉を掴んだ。 「いい加減にしろよっ、テメェー!!」 シャツが引っ張られて、首が苦しい。 僕はつま先立ちになって、必死に呼吸をしやすい姿勢をとる。 「さっきからよぉ、ちっとも集中出来てねぇじゃねかよっ!! テメェは別のことに気を取られてんだろぉがっ!!」 「……っ。」 ダイキの言っていることは正しい。 僕はさっきから時間が気になって仕方がない。スタジオ内にある時計ばかりに目がいってしまう。 だって――、午後4時になったら、お母さんが学校に乗り込んでいくって知っているから。 だって――、あと数時間後には、本当の僕がお母さんにバレてしまうかもしれないから。 (恐いっ、恐いよっ! 恐いんだっ!!) 大好きなギターを弾いても、大好きな仲間と演奏しても、恐怖が消えない。 「やる気がねぇんならっ、出てけっ!! 居ても邪魔なだけだっ!!」 (……やだっ! 出て行きたく……、ないっ!) 集中出来ない僕が、ここに居ると迷惑だって分かっている。 それでも――、僕が僕でいられるこの場所に居たいんだ。 (お願いっ、ここにいさせてっ!) 「ごめんなさい……っ。」 追い出されるのが嫌で、必死に6文字を搾り出した。 ダイキの手の力が緩まって、呼吸がしやすくなる。僕は一回なんかじゃ足りないって分かっていたから、何度も何度も繰り返した。 「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」 (恐いっ! 恐いよっ!) 「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!」 (出て行きたくないっ! 一緒に居たいっ!) 気付けば――、僕は泣いていた。 仲間の前で……、思いっきり。 6文字を、ずっと、泣き叫び続けていた。 「憲太ー?大丈夫かー?」 大和はやっぱり苦笑していた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |