silent child 3 「憲太も納得出来ないでしょ?こんな低い評価なんて。」 (違うっ! 僕は、仕方ないって思ってるっ!) 「……うん。」 「憲太が大人しい子だと思って、舐められているんだわ。文句なんて言えないと思っているのよ。」 (もういいよっ! やめてっ!) 「……うん。」 「こういう人達はね、黙っていたら調子に乗るのよ。抗議してやるわ!」 (やめてっ! 先生達は、悪くないっ!) 「……っ。」 僕には、お母さんの暴走を止めることなんて出来なかった。 お母さんは連絡網を引っ張り出してきて、電話をかけ始める。 (やめてっ! そんなこと、しないでっ!) 電話先は――、矢口先生。 僕の大嫌いな矢口先生。 今までの先生とはちょっと違う矢口先生。 (矢口先生だけはっ、やめてっ!) 矢口先生は、他の先生達とは違う。 今まで先生達が言わなかったことも、僕に平気でずばずば言うような先生。 だから――、お母さんにも平気で言っちゃうかもしれない。今まで濁されてきた言葉を、ストレートに言っちゃうかもしれない。 「もしもし? 矢口先生ですか?」 (やめてっ! お願いっ! やめてよっ!) 心の中では必死に止める僕。 実際は、足を崩せずに正座したまま、お母さんを見つめていた。 「何か? じゃないですよっ! 何なんですかっ、あの成績表はっ! 特にアナタの英語っ、憲太に対する嫌がらせとしか思えませんよっ!」 (やめてっ! そんなこと言わないでっ!) ここからは、お母さんの声しか聞こえない。 必死に聞き耳をたてるけど、矢口先生の声は聞こえない。 「なっ! うちの子に限って、そんなことは有りませんよっ!」 (何っ? 何を言ったのっ?) (やめてっ! お願いだから言わないでっ!) 僕は、凄く恐かった。あまりの恐さに、涙が出そうになってきて、必死に耐える。 もしかしたら、矢口先生の口から「アナタの子は、喋れない子なんです。」ってセリフが飛び出てしまっているかもしれないから。 ――そんなことお母さんに知られちゃったら、僕はこれからどうしたらいいの? 僕には、成績なんかどうでもよかった。 お母さんに“喋れない子”だとバレてしまうことが、何よりも恐かった。 お母さんを失望させてしまうことが、何よりも恐かった。 もし――、そんなことが起こっちゃったとしたら……、自分がどうなっちゃうのかが分からない。今の僕で居られなくなっちゃうかもしれない。 ――恐いっ。恐いよっ! 恐いよっ!! 耐えられなくて、涙が一粒頬を伝った。 「ほらみなさいっ! うちの子なんて、先生達の仕打ちの酷さに泣いちゃっているわっ! あぁ、可哀相にっ!」 (違うっ! 僕は、恐くて泣いているんだっ!) [*前へ][次へ#] [戻る] |