silent child
30
緊張しているから、体温が上昇しているっていうのもあるんだけど、それだけじゃない。
ステージの直ぐ下に群がっている観客の熱。そして、あちこちから飛んできては体に当たるライトの熱。
それが合わさっているステージの上は――、きっとどこよりも熱い。
『曲はあの定番ナンバー。正直、初心者の俺等にはまだ難しくて、完成とは程遠いかもしれないです。だけど、精一杯やるので聴いて下さい!!』
いつもおちゃらけているマサキのちょっと真面目ぶったセリフ。
真剣モードに入った証拠。
(始まる……っ)
仲間全員にマサキが目配せする。そして、マサキに大和にダイキが、一つ頷いた。
(大丈夫、仲間が傍に居る)
一瞬だけ生まれる無。
(始まる……、もう直ぐ始まる)
いつものカンカンカンカンという始まりの音は、いつまでたっても聞こえてこない。
だって……、この曲の始まりの音は――、僕の音なんだから。
僕は、大きく深呼吸をした後、もう一度観客席を見た。
――居た。マリオが居た。
目が慣れてきて、あの影が確かにマリオだって分かる。
マリオも僕を見て、一つ頷いた。
(大丈夫、出来る)
僕はケイ先生の白いピックを掴む親指に、ぐっと力を入れた。
(出来る。仲間と先生が傍に居るんだから)
僕はもう一度深呼吸をして、相棒を見つめた。
始まりの音。5フレットに左手の薬指を置いて、右手はストロークの準備をする。
――大丈夫。きっと出来る!
(僕は――、静かな子なんかじゃ、ないっ!!)
心の中で叫んでから、僕は右手を振り下ろした。
会場に響くのは――、僕の音。
ジャンッジャンッジャーン,
ジャッ,ジャッ,ジャッジャーン!
ジャンッジャンッジャーン,
ジャッ,ジャーーン!!
ワアァァーーーー!!
4小節終わった所で、何の曲か分かったらしく、大盛り上がりを見せる観客。
――凄く、気持ちいいっ!!
(出来る! 僕にだって出来るんだ!)
こんなに大勢の前なのに……、不思議と僕の体は動いた。
観客席が暗くて、視線を感じなかったからかもしれない。皆が直ぐ傍に居ることを感じていたからかもしれない。
次の4小節も同じフレーズ。始めの8小節は、僕の音だけの演奏なんだ。
そして、9小節目。もう一つ音が加わる。
加わるのは――、ダイキの音。
シャカシャカシャカシャカ
シャカシャカシャカシャカ
僕は暫く同じフレーズを繰り返し続ける。
そこに次々と音が加わっていくんだ。
16小節目3拍裏。また音が加わる。
加わるのは――、大和の音。
,ベンベンベン
ベンベンベンベン
24小節目4拍裏。これで揃う。
最後に加わるのは――、マサキの声。
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