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silent child
29

 シールドと相棒だけを抱えて。
――緊張する。だけど、一人じゃない。

 ステージには仲間が居る。
 左のポケットには、ケイ先生が居る。
 右のポケットには、マリオが居る。

 皆が居るんだ、ということを頭で確認しながら、僕はゆっくりと僕の使うアンプまで進んだ。

 アンプの横には、スタッフのお兄さんが居た。僕には、アンプの音設定はよく分からないから任せきり。
 アンプと相棒を繋いだ後は、お兄さんに言われるままに、試し弾きをする。
 今の時点で既に、指が震えて上手く弦を弾けないことに気付いてしまった。
(どうしようっ、どうしようっ)

ジャーンジャーンジャーンジャーン
 お兄さんが調整するごとに、いつもの音に近づいていく。
 それに反比例して、僕の気持ちは焦り、緊張は高まっていく。
ジャーン
(いつもの音になった……)
「はい、OK! 頑張ってなっ!」
 お兄さんの言葉に、辛うじてわかるくらいコクリと頷いてから、前を向いた。
 一歩、また一歩と進み、終に僕の立ち位置に到着。

 初めてのライブ。
 初めてステージに立ち、観客を見下ろした。
 ステージから見る観客席は――、真っ暗だった。
 誰がどこに居るかなんて分からない。
 辛うじて違いが出る影の形で、何となく見分けをするしかない。

――マリオはどこに居るの?
 確かに居るはずなのに、見えなかった。マリオがどこに居るのか、分からなかった。

(どこ? マリオはどこ?)
 マリオを必死に探していたら、急に目の前が眩しくなった。
 スポットライトが当てられたんだと認識するまでに数秒かかった。
 次いで、マサキの声が飛んでくる。

『どーもーっ! はじめまして、noisy boysですっ!!』
ワアァァーーーー!!
パチパチパチ!!
(始まっちゃった……っ)

 マサキは次々にメンバーの紹介をしていく。
 仲間が、仲間のことを喋っているのに、ちっとも頭に入ってこなかった。
――緊張する、緊張する、緊張するっ!!
 一気に、大量の熱が体を駆け上ってくる。
(どうしようっ、ヤバイっ、どうしようっ!)

『そして――、ギターのケンタ!!』
 名前が呼ばれたと思った瞬間、今までよりも大きいスポットライトを浴びせられた。
(熱い……っ、熱いっ!)
『一番大人しそうで、静かなヤツに見えるけど、ギターを握れば豹変しちゃうんだぜ! 何気に一番noysyなのはコイツ、ギターのケンタッ!!』
ワアァァーーーー!!
 雄叫び上げながら、足元にいる無数の影がゆらゆらと揺らめいた。

(大丈夫、僕は歓声をもらった)
(大丈夫、僕は歓迎されている)
 初めて知ったステージ上の世界。

 ステージの上は――、もっともっと熱かった。


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あきゅろす。
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