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silent child
28

 ステージの直ぐ下に観客が押し寄せ、リズムに合わせるかのように、体を激しく揺らしている。
 ステージ前に一応用意されていた沢山のパイプ椅子も、既に無意味。誰も座ってなんかいない。

 ここには、ライトの熱と、観客達が生じさせる熱、そして、汗の匂いと、様々な香水や整髪料の匂いが充満している。
 キツすぎる空気に、噎せ返りそうになる。

ワアァァーーーー!!
パチパチパチ!!

 気付けば――、1組目の演奏は終わっていた。
 どんな人達が、何の曲を、どういった風に演奏したかなんて、ちっとも頭に入ってこなかった。

 僕は、僕に精一杯だったから。
 緊張と興奮で、頭が一杯で、落ち着かない。心臓が……、熱が、体の中で暴れまくっている。
ドクドクドク
(どうしよう、ヤバイ、どうしよう)
 頭の中で、同じ言葉を繰り返す。僕には、どんな音よりも、自分の心臓が脈打つ音こそ一番大きな音に思えた。

 二組目が始まる。

 この次が僕達の出番だなんて……、信じられない。
(どうしようっ、ヤバイっ!どうしようっ!)

「憲太っ! 終に次だなっ! うわぁー、緊張するっ! どうしようっ!」
「マジやべぇーっ! 俺も俺もーっ! 声震えちゃいそうだしーっ!」
「ちっ……。」
 僕だけじゃなくて、皆も落ち着かない。皆も緊張している。
 それが分かって、ほんのちょっとだけ、落ち着いた気がした。

「あぁーーっ! もうこの曲中盤だぜっ?! うしっ!! 皆で気合入れっぞーっ!! アレやっとく? やっぱこういう時こそ、やるっきゃないっしょ?」
 マサキはそう言いながら、手を前に出す。
「だなっ!! 気合だな、気合っ! もうこうなりゃー、ヤケになって頑張るしかないよなっ! なるようになっちまえっ!」
 大和も手を出し、マサキの上に重ねる。
「ちっ……。ハズイ奴等。」
 文句を言いながらも、ダイキも手を重ねた。

「憲太!」
「ケンタ!」
「ちっ……、ケンタ。」
 3人に名前を呼ばれ、僕も皆の上に手を重ねた。

「うしっ!! 騒いで騒いで騒ぎまくれっ!!
 “noisy boys”いっくぞぉーーっ!!いっちょ、かましたれーーっ!!」
「「「「おぉーーっ!!」」」」
 どうせ他の皆には聞こえないだろうって分かっていたから、僕もこっそり、仲間に合わせて声を出した。
 円陣とか組んだりする時って、凄く恥ずかしいんだけど……、でも、“仲間”なんだって実感して気持ち良くなれるから不思議。

――誰よりも“静かな僕”は、仲間と一緒なら、誰よりも“うるさい僕”になれる。

 いつの間にか、二組目の演奏も終わっていた。
『次は、noisy boysの皆さんですっ!スタンバイお願いしますっ!』
 仲間と一緒に、僕はステージに上がった。


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あきゅろす。
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