silent child
27
マリオは、僕の頭をぽんぽんと軽く叩き、「がんばれよ。」という言葉を投げかけてから、また直ぐにどこかへ行ってしまった。
――あの大切な5文字を伝えなきゃ。
なんて、僕が考えつく前に。
やっぱり、僕の相手をする程マリオは暇じゃないんだなって思った。
スタッフさんも慌しく動きっぱなし。他の店舗や他の楽器担当の先生達も。
マリオが僕の相手をしてくれたのは、たったの5分くらい。
それでも――、嬉しかった。
マリオは僕のことを、ちゃんと気にしてくれているって、分かったから。僕の右ポケットには、マリオがちゃんと居るから。
午後6時半――。
ついに発表会ライブが始まった。
『皆様、お待たせ致しました! 今から、第○○回、発表会ライブを始めたいと思います!』
ワアァァーーー!!
司会の人が挨拶をした瞬間、会場はワァっと沸く。皆の上げる大音量に、僕の心臓は、益々早鐘を打ち始めた。
熱が、一気に湧き上がってきて、頭が上手く働かない。司会の言葉も、ちっとも頭に入ってこない程。
「憲太、行くぞ!」
3番目に出番の僕達は、始まって直ぐに、ステージ脇で待機しなくてはいけない。大和の後に続いて、楽器置き場へと向かった。
僕の相棒を見つけ、ギターケースのチャックを下げている途中で――、一気に照明が暗くなった。
――ライブが、終に始まる。
出るだけではなく、ライブに来るのも初めての僕。よくわからない、不思議な感覚で一杯だった。
バンドのリーダーらしき人が、スポットライトを浴びて何やら喋っている。ちっとも頭に入ってこなくて、唯その人を、ぼぅっと見ていた。
黄色いスポットライトが消え、小さなカラフルのライトが次々とステージを彩り始める。
静かな中、あの始まりの音が聞こえた。
カンカンカンカン
(始まる……)
次の瞬間――、それは始まった。
音、音、音、スピーカー越しから飛び交う音。声、声、声、ステージ下に居る観客達が飛ばす声。全てが大音量。
ズシンズシンと僕の体が揺れる。一音、一音飛び出すごとに、僕の内臓は飛び上がっては沈む。体の中で、何かがざわめくのを感じていた。
「憲太っ! おいっ、憲太ってば! 準備出来たのかっ?!」
大和に体を揺すられ、耳元で叫ばれたところで、僕は漸く思い出した。自分の出番は直ぐで、急いで用意しなくてはいけないことを。
ダイキとマサキは、こっちに取りに来るものがないから、とっくにステージ脇に控えている。隣に居る大和も、準備万全。
僕は急いで、相棒とシールドを取り出し、腕に抱え込んだ。それだけを持った状態で、ステージ脇へと走り、二人と合流する。
これで仲間が全員揃った。
ステージの近くは驚く程――、熱かった。
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