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silent child
25

 集合20分前――。
 僕達は、ステージ前に用意された椅子に座っていた。僕の右には、大和、左にはダイキにマサキ。
 さっきまでふざけていたのが嘘のように、真剣な顔をして必死に譜面を見つめていた。皆もそれぞれが、自分の世界に入っていて無言。

 不安になって、相棒に触りたくなってくる。
 だけど、こんな所で、ギターを引っ張り出してきたら迷惑。それに相棒はもう、ステージ横の楽器置き場に置かれている。
 とりあえず僕は、プログラムを筒状に丸めて、ネックに見立ててイメトレを繰り返した。実際は、そんなの全くの無意味なんだけど。
――どうしよう。緊張する。


「うわっ! すげぇー! 丸尾先生だぁー!」
「私っ、先生の生徒になりたかったなぁー。」
「今何店の、何曜日、何時受け持ってるんすか?そっちに移動してぇー!」

 さっきからマリオが大勢の生徒さん達に囲まれている。
 生徒さん達の余裕ぶりにもビックリだけど、マリオの人気ぶりにもビックリした。

(いつもは、ケンタどこだぁ?って探しに来るくせに……)
 きっと今のマリオには、僕のことなんか見えちゃいない。
 あんなに大勢の生徒さん達に囲まれているんだから。
 あんなに楽しそうに笑っているんだから。
 なんだかマリオのことが――、遠い存在に思えた。

 気にしなければいいのに……、さっきからマリオが気になって仕方がない。

 僕はまた、視線を譜面に戻した。
 それから、ケイ先生の白いピックをぎゅっと握った。


「ケンタ。」
 ドキッとして顔を上げれば、そこに居たのは――テツさんだった。
 別に……、マリオなんか期待してない。

「応援してんだから、頑張れよっ!」
 テツさんは、こぶしを前に突き出してきた。僕もこぶしを出して、コチンとぶつけた。
 これが僕に出来る精一杯の返事。
「まだセットあるから、俺行くわ。じゃぁな。」
 テツさんも遠くに行ってしまった。

――緊張する。緊張する。
 もう少しで始まる。

『そろそろ軽く流れを確認しますので、皆さん、ステージ前に集まってください。』
 キィーンという音の後に、スタッフさんの集合の声が掛かった。
 僕は、心臓を激しく脈打たせながら、3人の後に着いて行く。
 集まってみれば、中には小学生くらいの小さな子から、真っ白頭のおじいさんまで居て驚いた。

『軽くリハーサルしてみましょう。』
 ステージを登って、上に立って、降りるだけのリハーサル。
 順番は、経験暦が浅い順だから、僕達の出番はあっという間。一部の三番目。

 リハを無事終わらせ、またさっきの場所に戻っていく……、途中で声を掛けられた。
「ケンタ、見つけたっ!」
 立っていたのは――、髭を揺らしたマリオだった。


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あきゅろす。
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