silent child
24
凄くムカついて、凄く最悪な一日だって思ったけど……、“仲間”の前で喋れるようになったことは嬉しかった。
石川君のこと、僕は大嫌いで苦手だった。
だけど、石川君……ダイキのおかげで僕の世界は広がった。
僕の喋れる場面が大きく広がったんだ。僕はまた成長することが出来たんだ。
だから――、ダイキに感謝した。
塾のために30分早く帰った僕。
スタジオを出る時に、一言言い捨てて逃げてきた。
「ダイキ……、“ありがとう”。」
あの大切な5文字を。
恥ずかしくて、後ろは振り向けなかった。顔に熱が集まっていくのを感じて、僕は急いで帰っていった。
後で聞いた話――。
ダイキと僕か、はたまた、ダイキと大和が揉み合った拍子に、譜面台を1台壊してしまっていたらしい。
返却の時にそれが発覚して、3人とも、テツさんから一発ずつ、げんこつを食らったんだって。今度ケンカする時は、外でしなきゃなって反省した。笑っちゃうけど、大事なこと。スタジオは大切に使わなくちゃって、改めて思わされた瞬間だったんだ。
(※喋れた理由:ポケクリ1/18お知らせ参照)
*****
八月最後の日曜日――。
今日は終に、発表会ライブの日。
「ねぇ大和っ! 僕、本当に大丈夫? おかしくない?」
「大丈夫だってぇー! カッコイイカッコイイ! 次、俺、俺! なぁ、俺はー?」
「大丈夫だよー! 大和はいつもカッコイイじゃん!ちょっともう一回僕が!」
集合は午後6時で、今は午後3時。
大和の家で、姿見の前を奪い合ってる僕達。髪型がどうのとか、やっぱりこっちの服がいいんじゃないかとか、そんなことを朝からずっと繰り返している。
当日の朝、失敗が心配で必至に楽器の練習しまくってるんじゃないかと思いきや……、実際は、こんな下らないことに時間をかけちゃうんだから笑える。
ただの発表会ライブでも、僕達にとっては初めてのライブ。
初めての晴れ舞台なんだから、気合が入っちゃうのもしょうがない。
――どうせなら、少しでもカッコイイ思い出にしたいな。
午後5時――。
僕達は全力でチャリを漕いでいた。
「あぁー、緊張してきたぁーー!!」
「僕もっ!! あぁーー、どうしようーー!」
時間はたっぷりあるんだから、そんなに急がなくてもいいんだけど……、気持ちが焦っているから、勝手にペダルを漕ぐスピードも上がっていく。
20分後にはライブハウスに到着。
僕達は、慌ててトイレに駆け込んだ。
「あぁー! 髪がぁーー!」
「大和ー! お願いっ、直してーっ!」
そんなこと言って、また鏡の前に10分くらい居座っていた。
今日の僕の髪はいつもと違う。大和と同じ、グレープフルーツの香りつき。
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