silent child 7 「そのままじゃぁ、この先通用しないぞ。」 (そんなこと分かってる!) 「先生、俺が」 「いつまでも滝に甘えていられると思うな。」 大和の声を遮って、先生はキツイ口調で言った。 周りは次第にざわついてくる。 数人が、近くの席の子とこそこそと、僕と先生のことを話している。 「時間が勿体ないよね。」 「受験生なんだぜ?マジ勘弁。」 「先生も放っておきゃいいのに。」 「高木君は仕方ないよ。」 僕のことを責める声。 先生のことを責める声。 二人を責める声。 僕だって――、わざとやってるわけじゃない。授業を止めて、皆の勉強を邪魔するつもりなんてないんだ。答えたいけど……、声が出ないんだ。 なんでそんな簡単なことが出来ないのかなんて、自分でも分からない。 どうして僕は……、こんなことも出来ないんだろう? やっぱり僕には……、出来ないよ。ライブだなんて、きっと出来ない。 だって――、たったの38人の視線にも耐えられないんだから。たった38人の視線で……、僕の顔は上がらない。僕の体は動かない。 「高木、お前は」 ガラガラガラ 先生が何か言いかけた時、教室の戸が乱暴に開けられる音が聞こえてきた。顔を上げることの出来ない僕には、誰なのかを見て確かめることは出来ないけれど、予想はつく。 「石川っ! またお前はっ!」 (やっぱり……、石川君) 石川君は学校一の不良ってやつらしい。学ランの下にはいつも派手なTシャツを着て、今時ボンタンなんか履いて、周りから浮いている。 「どうしてお前は、いつも遅刻してくるんだっ!」 「うっせー。知るかよ。」 「その服装ももう少しなんとかならないのか!」 「ちっ、うぜぇーな。俺の勝手だろ。」 「マジ、だりぃ」とか言って、石川君が席につけば、一斉にガタゴトと音がし出した。きっと皆が、石川君の席から自分の席を遠ざけた音。 「石川。教科書の32ページを開け。1行目から音読しろ。」 「はぁ? なんで俺なわけ? 勝手に読めば?」 「いいから読め。」 「意味わかんねぇー。」 僕に向いていた視線は、いつの間にか、全部石川君に向いていた。僕の顔は漸く上がる。 さっきの僕みたいに、石川君と先生のやり取りが続いている。 だけど――、決して同じじゃない。 僕は何も喋れなかった。 石川君は言いたいことを言いまくっている。 僕は顔を上げることが出来なかった。 石川君は、先生をガンつけている。 僕と石川君はちっとも似ていない。まるで正反対。 石川君みたいに、自分の気持ちをぶつけるのって気持ちいいんだろうな。ちょっと行き過ぎだけど。 僕と石川君。足して2で割ったら、丁度いいのかもしれない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |