silent child 11 僕には忘れられない思い出がある。 “あっ君とピーちゃん”。あの思い出……。 だけど今の僕にはもう一つの思い出が加わった。 “遅すぎた『ありがとう』”。 思い出なんて、年月が経つにつれて忘れていくもの……。 だけど僕は……、たとえ“あっ君とピーちゃん”を忘れても……、“遅すぎた『ありがとう』”だけは忘れられない気がした。 ううん……、忘れてはいけない気がした。 家に帰ってから、ケイ先生の真っ白なピックに文字を書いた。油性マジックで、消えないように。 あの遅すぎた5文字を……。 僕は相棒をアンプに繋げて、ボリュームを最大にした。そして、窓を全開にし、相棒を持って、窓のまん前に立つ。 そして5文字を書いた白いピックで弦を思いっきり弾く。 ――叫べ! 叫べ! もっと叫べ! 暫くして、向かいの窓もガラリと開いた。 そこに居たのは――、大和と大和の相棒。 僕は何も言ってないのに……、大和には何をしているか分かったみたいだ。 そんな大和のことが――大好き。 ご近所中に響き渡るのは、僕の音と、大和の音。 そして――。 「憲太っ!! 止めなさい!!」 10年ぶりに聞くお母さんの怒鳴り声。 止めろと言われたのに、僕は止めなかった。 ――叫べ! 叫べ! もっと叫べ! ――届け! 届け! 天まで届け! 「ケイ先生っ! “ありがとう”っ!!」 [*前へ] [戻る] |