silent child 6 折角大和に貰ったリストバンド。 僕は、これを誰にも見せることも出来ず……、ずっと隠し続けるのかもしれない。 今日でギターのレッスンは4回目――。 僕はすっかりケイ先生に懐いていた。 大和以外の前では、自分の意思すら表現出来なかった僕。自分の感情さえ表現出来なかった僕。 ケイ先生の前では、少しだけ表現出来るようになった。やっぱり喋れないことには、変わりないのだけれど……。 「そこ違ーう。あっ、今笑って誤魔化したな。」 「ここもう一回ねー。口尖らせてもダメー。」 「ギターって楽しいでしょ?ケンタ君、楽しそうな顔してるもんね。」 ケイ先生の言葉だけ聞いていると、僕がまるで表情豊かになったのかと思われるかもしれない。 だけど……、それは違う。僕は変わらず、ほとんどが無表情のまま。 ケイ先生は、僕の些細な顔の動きを読み取ってくれるんだ。 そんなケイ先生のことが――、今では大好き。 たった3時間とちょっとしか関わっていないのに。ケイ先生は不思議な先生だった。 「それ、カッコいいね。よく似合ってる。」 (嘘。僕には似合わない。) ギターの練習中、袖が浮いて、大和がくれたリストバンドが見えてしまった。 ケイ先生が、このリストバンドの初の目撃者。似合っていると言われて、似合わないよと思い返しながら、僕の顔に、熱が集まっていくのを感じた。 「はい。今日はこれでお終い。」 (嘘?もうお終い?) もう一時間経ってしまったなんて思えなくて、思わず僕は、レッスン室にかけられている壁時計に視線を向ける。 18時15分。一時間どころか、15分もオーバーしていた。 「時間が経つのって早いよね。」 恥ずかしいことに、僕の気持ちはケイ先生にはお見通しだった。 「今日はケンタ君を、外までお見送りしようかな。」 (嬉しい……) 先生は本当に外まで一緒に来てくれた。しかも、お店の前にある自販機で、僕にジュースを奢ってくれた。 僕はジュースを飲みながら……、先生はコーヒーを飲みながら……、初めて音の溢れる世界で一緒に時間を過ごす。 「ケンタ君のレッスン始まってから、もう一ヶ月経ったんだね。」 僕は喋れない代わりに、コクンと頷いて、同意を示す。 「これからも……、ずっと続けてね。」 僕は僕の出来得る限り、必死にコクリコクリと首を動かした。 「先生!こんにちはー!」 「あぁ、こんにちは。」 次の生徒さんが来た。ということは、多分もう18時30分。 今日は初めて、ケイ先生と1時間30分過ごした日。 [*前へ][次へ#] [戻る] |