[携帯モード] [URL送信]

silent child
13

 大和が離れようって言ったのは、僕のため。
 新しい僕になれるように……、僕のためを想って、そう言ったんだ。

 いつでも僕のことを想ってくれる大和。
 そんな大和が――、大好き。

――僕は、新しい僕になることが出来るかな?

 怖いけど、凄く不安だけど……、これはきっとチャンスなんだから、頑張ってみたいって思う。
 本当に変われるのかって聞かれたら、自信を持って、変われるだなんて言えないけど……。
 それでもきっと、大好きな人達は、僕を応援してくれるに違いないから……。

――新しい僕になれるように、頑張りたい。

 早く、大和に会って謝りたい。
 早く、頑張りたいってことを伝えたい。
 気付かせてくれた、丸尾先生にも、お礼を言いたい。


 微笑んでいたはずの先生の顔が、急に全快の笑みに変わる。
「なぁんて、ちょっとシリアスぶってみたおじさんでしたっ!!」
 そうおちゃらけてみせる先生は、いつもの先生だった。

「あぁっ、もうこんな時間っ?! 今日もうこれで終わりじゃんっ!!
 おじさんがレッスンさぼったって、訴えたりしないでくれよぉー、ケンタァー!!」

 しんみりした空気も吹き飛ぶ程、先生はおちゃらけてみせる。
 先生も真面目な話をして、恥ずかしかったのかもしれない。ちょっと顔が赤くなっているから。
 なんだかそんな先生がおかしくて、口が勝手に緩んでいく。

「あぁーっ!! ケンタ笑ったなぁーーっ!! もうっ、おじさん真剣なのにぃ!
 ほら、これ落ちてたぞい。ちゃんと持って帰って練習してこいよぉー。」
 落ちたままになっていた教本を拾って、僕に手渡してくれた。僕はそれをしまって、ギターケースを担ぎ上げる。

 今日のレッスンはこれでお終い。
 先生の話を聞いていただけど、レッスン以上に学べたことはあった気がする。

 先生は、未だに椅子に座ったままだった。
 まだいつもの調子が、完全に戻っていないのかもしれない。


ガチャッ
 ドアを開ければ、音で溢れ返る。
 先生だけの声に溢れた世界は、これでお終い。

 体を外の世界に滑り込ませ、先生を残したままドアを閉じる瞬間――。

「ありがとう。」

 僕の声を飛ばしてみた。
 店内の音より小さかったし、ドアを閉める瞬間だったから、ちゃんと届いているかは分からない。

 それでも――、言えたぞって気持ちで一杯になって、僕の顔は真っ赤だった。万が一にでも、先生が追いかけてこないように、全力で走り出す。

 店内で戻ったところで、誰かとぶつかった。
 顔を見れば、僕の今一番会いたかった人、大和だった。

(言わなきゃ!)
「僕……、理数科受けるよ!」
 一言目に出たのはそれだった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!