silent child 10 寝て起きたら、ケンカしたことなんて忘れてる、なんて……、そんな上手くいくはずもなく、 「……はよ。」 返ってきたのは硬くて低い声。 (やっぱり、まだ怒ってる) まだ大和の怒りが冷めていないことを知って、テンションが一気にがた落ちした。 いつもと同じように、並んで通学路を歩く。 だけど、いつもと同じじゃない。始終無言で、重たい空気。 大和はだんまり。 僕もだんまり。 僕が謝るべきだって分かっているのに、まだ気持ちの整理がついてなくて……、どうしても謝罪の6文字が出てこない。 沈黙した空気の中で、ぐるぐると考える。 突然、大和に腕を引っ張られた。 ブゥーーーーン その直後、僕の直ぐ横をバイクが走り抜けて行く。 (全然、気付かなかった) ドキッとして、変な汗を掻いた。 大和は黙ったまま、僕と位置を入れ替わって、車道側を歩いてくれる。 ――いつもと変わらない、優しい大和。 「ありがとう。」 「……ん。」 喋ってみれば、怒った大和。 「「……。」」 また沈黙。 学校に着いてからも、大和はこんな調子だった。授業中も、休み時間も、昼食の時も、帰る時も……。 仲直りするまで、きっとこれは続くんだ。 いつもみたいに、一緒に下らないことをして笑ったり、ちょっかいを出し合ってムキになったり、音楽の話で盛り上がったり……、そういうのも、このままじゃ出来ないんだ。 そんなの……、楽しくない。 (だんまり大和のままなんて、嫌だっ!) どうしよう、どうしようって、ずっと頭をぐるぐるさせていた。 どうしようって言ったって、僕が謝る以外にしか方法がないのに……。 それから数日が経った。 それなのに……、未だに仲直りが出来ていない。 (どうしよう……) 願書提出日は、着実と迫っていた。 ガチャッ 「って、ケンタここに居たぁーーっ!!」 店内の音とともに、丸尾先生の声が飛んできた。 今日は日曜だから、レッスン日。 「かくれんぼ中止なら先に言ってよぉー!おじさん、店内探しちゃったじゃんっ!!」 そう言えば、かくれんぼは毎回恒例のはずだった。 なのに、あまりにぐるぐる考えすぎて忘れていて……、先に教室に来て着席していた僕。 探させちゃったんだとしたら、ちょっと悪いことをしちゃったな。 「まぁ、おじさんよりも早く教室に入ることはイイことだけどな! ケンタ、偉いぞいっ!」 丸尾先生は、髭を揺らしながらそう言った。 僕が失礼なことをしたって、笑って許してくれる先生。 そんな優しい先生が――、大好き。 [*前へ][次へ#] [戻る] |