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silent child


「憲太……。俺の成績が足りなくて、理数科を一緒に受けれなくなったのは、悪いと思ってる。
 俺だって……、悔しいんだ。憲太と一緒に居たいからって理由もあったけど……、県内一の、ずば抜けた偏差値を誇る理数科に入って、将来に向けての勉強もしたかった。家族にだって、喜んでもらいたかった。結局は、頑張れなかった俺の自業自得だけど……。
 入りたくたって、手の届かない奴等だって居るんだぜ?それなのに……、それを簡単に、止めるだなんて言うなよ。」

 大和の言ってることが正しいって分かっている。
 僕だって、理数科自体に魅力を感じないわけじゃない。
 それでも――、嫌なものは嫌なんだ。

「嫌だっ!! 理数科なんて止めるっ!!」
 大和はいつも、僕の気持ちを分かってくれるはずだった。最後には、いつも僕のわがままを聞いてくれるはずだった。
 なのに――、今回の大和は違った。

「理数科と普通科じゃ、カリキュラムだって違うんだぜ? 憲太は、理科とか数学が好きなんだろ? それなら、理系科目の授業数が多くて、深く濃い内容を学べる理数科に行くべきだよ。」

「勉強なんて、自分で出来るっ!!」
 中々引いてくれない大和に、僕も引けない。
 道を塞いでいたら迷惑だなんて考えは吹き飛んでいて、次第に白熱した討論に発展していく。

「いくら自分で出来るって言ったって限度はあるだろ? 簡単な授業を受けて、また自分で勉強し直すなんて無駄になるし……、その授業でしか学べないことだってある。周りから受ける刺激だって違うんだ。理数科に行って、頑張っている奴等から刺激を受けることで、意欲だって高まる。」

「普通科に行ったって、今まで以上に意識して頑張ればいいっ!!」
 僕の理由は、理由になんかなっていないってことが分かっていた。
 でも、絶対に引きたくなんかない。大和と離れるなんて、考えたくなくて……、益々顔が熱くなっていく。


「それに……、」
 大和は一回瞬きをした後、僕を見つめてから、こう続けた。

「俺達だって、いつまでも一緒に居られるわけじゃないんだぜ?
 高校で同じクラスになったって、その次には大学がある。その次には、就職がある。
 全部一緒だなんて……、そんなのは無理なんだよ。キツイこと言うようだけど――、これを機に……、離れることに慣れるべきだと思う。」

 今まで以上にゆっくりと、真剣な声音。
 今まで色々なことを言った大和だけど……、本当に言いたかったことは、このことなんだって、僕は理解してしまった。

――大和とは、ずっと一緒には居られない。

 そんなこと、分かっていた。
 だけど――、初めてはっきりと言われて……、ショックだった。言い返すのを忘れる程。
 顔だけじゃなくて……、目の奥まで熱くなってくる。


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あきゅろす。
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