silent child
20
「がんばれ。」
どこからともなく、応援の4文字が飛んできた。
「がんばれっ!」
また飛んできた。
「ケンタ君っ、がんばれっ!!」
飛ばしているのは――、僕の目の前に居る、沢山の人影達。
「「「がんばれっ! がんばれっ!」」」
沢山の視線を感じる。
だけどそれは、僕には突き刺さらずに、優しく包み込んでくれた。沢山の勇気をくれた。
僕が一つコクリと頷けば、また会場に、無が返ってくる。
喉が……、焼け付く程、熱かった。何かが、飛び出していってしまいそうな程に、熱かった。
沢山の視線を浴びながら、僕はカレンを見つめる。カレンもこっちを見つめていた。
もう一度口を開けば、やっぱり息が漏れていく。
僕は知っている。
手紙やメールで言葉を伝えたり、相棒の音を使って、カレンと会話出来たって、それじゃぁ意味がないってことを……。
自分の口で、音を紡ぐことが大切なんだって……、僕はちゃんと知っている。
だから――、後悔しないように。
(カレン……)
『……っ、……がっ……、』
言の葉を――。
『……っ、……っ、ん、』
音に乗せ――。
『……っ、……ば、……っ、』
君まで飛ばせ!
『……っ、……っ、れ……っ、』
(もっと、はっきりと!)
『……がっ、……っ、ん、……ばっ、……れっ。』
(もっと、もっと、はっきりと!)
『……がっ、ん、……ばっ、……れっ。』
(もっともっと!!)
『……がっ、ん、……、ば、れっ。』
(もっと、大きな声で!)
『……がっ、ん、……ば、れっ!』
(もっと、もっと、大きな声で!)
『……が、ん、……ば、れっ!!』
(もっともっと!!)
『が、ん、ばっ、れっ!!!』
『がん、ば、れっ!!!』
『がんっ、ばれっ!!!』
僕は――、真っ赤になりながら、何度も叫んだ。喉に引っ掛かった言の葉を。
聞こえるのは――、泣いている音。
カレンが泣いていた。周りの人も泣いていた。大和も、マサキも泣いていた。
――何で泣いているの?
これは、悲しみの音?
顔を掌で覆っていたカレンが、手を外し、上を向いた。口元は笑っていた。
そして、カレンの口はゆっくりと動いた。
紡いだのは、あの感謝の5文字。
――ありがとう。
(あぁ、そうか……)
これは悲しみの音じゃなくて……、“嬉しいの音”なんだ。
皆、僕が頑張ったことを喜んでくれているんだ。
(頑張って……、良かった)
(本当に、良かった!)
僕の顔に、益々熱が集まっていくのを感じた。だけど、これはさっきの熱とは違う。
この心地よい熱は、“嬉しいの熱”。
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