乙女日和
「姉さん、結婚しましょう」
なんとなく。なんとなくだ。
姉さんが驚いた顔でこちらを見ている。愛嬌のある瞳をまん丸に見開いて。
言ってしまったことに少し、後悔した。
「あら、アリスったら。姉さんをからかってるのね」
ふふ、と微笑んで姉さんは読んでいた本を閉じる。どうやら構ってほしいという合図だと受け取ったらしい。
それはその通りであるけれど、絶対的に違う。
「冗談なんかじゃないわ」
「まあ」
「だって私は姉さんの側にずっと居たいのですもの」
「アリスったら、小さい子みたいね」
嬉しそうな、困ったような、複雑な表情が姉さんの顔に浮かぶ。
ワガママだと、わかっている。それが姉さんを困らせるのだとも。
「…ごめんなさい」
謝った声は小さかった。
姉さんの隣に腰掛けて、肩に頭を乗せる。
これで姉さんの顔は見えない。ごめんなさい。姉さん。
「アリス」
優しい声がする。姉さんの声だ。柔らかくて温かい。
「私もね、アリスとずっと一緒にいれたらいいなって思うわ」
姉さんに触れている部分がじんわりと温かい。
いやだなと思った。困らせるのも一緒にいられないのも、自分の醜い部分も。自分が触れてはいけない存在なのだと思って余計いやになった。
「アリスは、私の大切な妹だもの」
それは確固たる、拒絶。
(私は檻から抜け出せずもがくのです)
e.
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