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可愛い君

ふわりと抱き締められる。

ほのかに香る煙草の匂い、布の感触、暖かな体温。




「あ、の」

「…これはセクハラにあたるだろうか」

「ええ、まあ、そうでしょうね」




戸惑う頭ではうまい返事を返すことは出来ず、これは、ええと。




「で、でも、私だから大丈夫じゃないかしら」

「アリスだから?」

「だって私達恋人、でしょ」




ごっこだけど。ああどうしようドキドキする。緊張する。頬が熱い。




「…アリス」




少し掠れた声が頭上から聞こえる。

緩く押さえられた頭はグレイの胸に固定され、動かすことが出来ない。動かす勇気もない。

頬はもう触ったら火傷出来るんじゃないかと思う程熱くなっている。手も汗でベトベトだ。

沈黙。が長い。何か言ってくれたらいいのに。

いつもは気まずさなんて感じない沈黙が、とんでもなく居心地が悪い。そわそわする。

頭にあるグレイの手が気になって仕方ない。

ドキドキそわそわ。手持ち無沙汰になっている両手をグレイの背中に回してもいいものか考えていると、小さく息を吐くのが聞こえた。




「…すまない」




何が?と聞く間もなくグレイの腕から解放される。

上昇した体温にひやりと空気が触れ、ああもったいないと思いながらもあれ以上は心臓が保たなかったかもしれないと思い直す。頬にあてた手の甲の冷たさは一瞬で火照った頬に吸収された。




「アリス、顔が赤いぞ」

「だっ、誰のせいだと!」




かあっ、とまた体温が上がる。手汗をこっそりとエプロンドレスで拭いつつ、面白そうに微笑むグレイを軽く睨んだ。あくまで軽くだ。グレイを本気で睨むなんて、一生出来ないと思う。




「君は、本当に…」

「な、なに?」




グレイが困った顔をしたと認識した瞬間、伸びてきた手に頭を引き寄せられ、て




「っう」

「可愛いな」




唇を掠め、囁いたそれは。




「ううう…!」

「ど、どうしたアリス、そんなに嫌だったか?」




首を横に振る。

俯いて顔を両手で覆った。だって恥ずかしすぎる。自分でもこの反応は過剰すぎると思うが、恥ずかしいのだから仕方ない。




「やりすぎた、か?すまないアリス、調子に乗った」

「ちが、違うけど!」




おろおろと狼狽えているグレイの姿が見なくても分かる。

ああもうっ。




「…恥ずかしいだけだから!」

「恥ず、かしい」




え、あ、と呟く声が聞こえた後静かになる。

どうしたのだろうと少しだけ顔を上げると、さっきより随分困った顔で、頬を赤くしているグレイがいて。


…ああもうっ!











(二人で真っ赤な顔をして突っ立ているのをナイトメアに目撃されるまで、互いに暫く動けないまま)











e.
















+++++
グレイも恥ずかしくなってきたんです、きっと。


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あきゅろす。
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