わかってよ
「好きとか好きじゃないとかどうでもいいんだよッ!!」
ばーかばーか!負け犬の遠吠えならぬ負け兎の遠吠え。
いや、実際目の前に指を突き付けられている程距離は近いから叫び声だろうか。いやいやそれを言うなら目の前の兎は負けてもいないからただの兎だ。
「アリ、スッ!」
どこかに意識を飛ばしそうになっている所に名前を呼ばれ現実に引き戻される。
引き戻されて改めて。
目の前の光景の異常さに何故か感心してしまう。
異常になった事、に感心していると言うべきか。
とにかく目の前の兎さんが自分に暴言を吐くなんて、まさかまさかの初対面以来だ。
「…バカ、ね」
ぽつりと何気なく呟いた一言に、目の前の兎さんの耳がぴくりと震える。
ふるふるふる、と瞳さえ揺れて今にも泣きそうだ。
「いやっあのなっ…!だからバカってのは勢いっつーか…な!」
「勢いで出る程普段から私をバカだと思ってたのね」
「ち、ちが…!」
涙をうっすら浮かべて反論する姿は負けているわけではないのにまさに負け兎。
そんな趣味は無いはずだが、なぜだろうか。加虐心を煽られる。
「ああぁ!…もういい!俺が言いたいのは好きとかそんなんじゃなくて…」
首を思い切り左右に振って咳払いをひとつ、ほんのり兎の頬が紅く染まる。
アリスはそんなエリオットを興味深く見ていた。
見ていた、が。
「俺は!あんたを愛してるんだ!」
ごーー…ん。
予想外の言葉にアリスの頭の中で響く衝撃。
アリスが驚愕に間抜け面を晒している目の前で兎の鋭い瞳がきらっきらと輝いている。
「愛してるぜ、だから嫌いになんてなんねぇ」
そこで何故、だから、なのか。愛を語っても嫌いになんてなれるのに。
衝撃を受ける傍らアリスの脳は冷静に考える。
それでも何故か、馬鹿ねとは言えなかった。
「…な、なんで急に」
「だってあんた全っ然わかってねぇから」
笑顔で輝いていた顔が拗ねたように曇る。
唇を尖らせるなんて動作が似合うこの兎はある意味異常かもしれない。
「疑うなよ、アリス」
そう言って困ったように笑う兎に、返せる言葉はなく。ただ見透かされたような感覚に眉が下がった。ただ、ただ。
「ばーか」
困ったように笑うエリオットの瞳はそれでも眩しく輝いて見えた。
(負け兎なんて馬鹿な話。私は貴方に完敗なのに)
e.
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