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知らない

知らない

知らない

知らない






私は、
知らない








耳を塞いで瞼を閉じて否定する。

こめかみがじくじくと痛んで蓋をされた記憶がぎしりと軋んだ。




「しあわせ、を望むのなら」




低く鼓膜を揺する声。

奇妙な国の奇妙な住人。

特別な人。




「知らない方がいい」




何を知らないのか、何を失くしたのか。

彼は教えてくれない。誰も教えてくれない。

この世界は、教えてくれない。




「…帰り、たい」

「本当に?」




呟けば返される問い。

じくじく、しくしく。

からからに渇いた喉はうまく空気を揺らせなかった。

笑う男。悪の上から偽悪を被る、おかしな男。




「、帰るわ」

「何故」




首を傾げて間を置かず。

何故ってそれは、それは。


それは。




「ほぅら、答えられない」




何故?

笑う男、笑う声。

痛みは止まず、増すばかりで。




「違う、違う、違う」

「何が、違う?」

「私は帰るの!」




ぴたり。

響く余韻、沈黙。

笑う声は消え、その笑みすら。

ぽつり、落とされた言葉。





「…帰さないさ」





じくじく、しくしく。

痛む傷む悼む、それは。














望むものは

ひとつだけ








(ねえ、)














e.

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