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夢魔の見る悪夢

「寒い、寒いぞ!」




元から青ざめた唇をより青くさせ、寒い寒いと喚く大の男が一人。

毛布にくるまってガタガタと震える様は確かに寒そうだが、この世界は通常、寒暖というものがない。

引っ越しというアリスの常識や認識を軽く飛び越えた現象による影響も既に落ち着いてきていた。

よって目の前の男の寒さには気温なんてものは一切関与していない、つまりは。




「…風邪ね」

「ちちちち違う!断じて違う!気分的に悪寒がするだけであって、…絶対薬なんて飲まな」

「うるさい、座薬突っ込むわよ」




そう言ってアリスは目の前の蓑虫に爽やかな笑顔を向けた。

きっと今の自分はあの帽子屋に張るぐらい胡散臭い笑顔を浮かべているに違いない、アリスはそう確信する。

何故ってそれは男の顔色が真っ青から真っ白に変化したので。




「嘘よ、嘘。軽いジョークじゃない」

「絶っっ…対、本気だっただろう!恐ろしい、なんて恐ろしい子なんだ君は!」

「はいはいはい、なら選ばせてあげるわよ」

「え、」

「薬を飲むか座薬を突っ込むか。どっちにする?」

「…鬼だぁぁぁぁ!」




飲まないなんて選択肢は元から用意していない。

自然治癒を大いに推奨するこの男は成り行き任せにするには余りにも弱々しすぎる。

血を吐くのがいっそひとつのアイデンティティだとでも言うような言動と行動と頻度はそれを見ているこちらの心臓にも悪い。

特にこの男の側近の胃が、そろそろ限界を迎えそうだ。




「頼りになる男になるんでしょう」

「う…ッ」

「粉薬はちゃぁんとゼリーに包んであげるわ。座薬は嫌でしょう?」

「うぅ…ッ」




優しく優しく、アリスは男を諭す。

それこそまるで母親の様に。




「大丈夫よ」

「……アリス」

「早く治しましょう。ね?」




男の視線が泳ぐ。

泳いで、ぴたりとアリスで止まった。
戸惑いに揺れながら瞬きを繰り返し、唸りながら顔を伏せ。




「や、やってやろうじゃあないか…!」




覚悟を決めたようにがばりと顔を上げた。

ひっそり、アリスはにやりと笑う。よし、かかった。

一層のこと悪くなった気がしないでもない顔色はこの際無視だ。

アリスはにっこりと笑いそしてパン、と両手を打ち鳴らし。




「グレイ!」

「え」

「失礼します」




すぐさまガチャリと開いたドアから蜥蜴が入室してくる。

その手には薬と水(そしてゼリー)が乗った盆があり。




「なな、な、なん、早すぎるだろう!準備が!」

「貴方のためだもの」

「そうです、貴方の為ですから」




一方は笑顔で、もう一方は無表情に。

がしりと捕まえられた腕は逃亡への抑制となりそして。















(あーんです、あーん)
(なんでグレイなんだ!ここはアリスがむごぐ)
(ごっくんよ、ナイトメア)
(ごっくんです、ナイトメア様)
(んぐぐぐぐー!)





e.

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あきゅろす。
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