拒絶された世界で君を想う
その他大勢の必要とされない人間に混じって、少女は姿を眩ます。
時間の世界で必要とされた少女は、悪夢の世界で意義を無くし義務のみで生きていた。
顔のぼやけた不鮮明な世界で、少女の姿を追う。
見慣れたはずの少女ですらはっきりとしない輪郭。義務に縛られて生き続ける少女は既に時間の世界からの帰還を夢だと思える程の時間を過ごしていた。
たった数年。それだけとも言えるし、そんなにとも言える。
その時間の流れを繰り返す数字は、流れた時間を振り返りただひとつの後悔から先に進めずにいた。
自分の持つ数字の順番が回る少しの間、その少女の姿ばかりを探して暗闇に落ちる。
「…アリス」
ぼやける存在。少女の名前を呟けば、返ってくるのは虚しい静寂。
忘れられていく世界は静かにけれど確実に時を刻んで彼女すら置いていく。
自分も彼女を置いていく存在であり、自分という人格に至っては彼女に置いて行かれる存在でもあった。
カチリ、カチリ。回る音。
笑う彼女はしあわせには縁遠い。偽りで塗りたくられた笑顔は寧ろしあわせを拒絶していた。
痛い姿だ、と思う。
「…ここにいればよかったんだ」
漏れる言葉に瞳を伏せた。
奇跡に近い確率で世界を渡った彼女。
今現在連れ戻そうにも手を拱いている自分が歯痒い。
彼女にとってしあわせで溢れた世界は彼女自身の意志で記憶から薄れていつかは忘れられていく。
夢のような世界はいつしか夢で終わる。
拒絶された世界に、隙間が生まれない。
変われない自分、時を刻む彼女。
「、アリス」
もう一度彼女を呼んだ。
回る時間が終わりに近づく。
暗闇に光が射してそして。
ふ、と。
彼女がこちらを振り向いて刹那絡み合う視線。
カチ、リ。
数字が変わった。
忘れられていく世界に隙間が生まれる瞬間。
奇跡だと言うならば奇跡を起こして、
君を連れ去ろう。
e.
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