牧物
*トルゥー・アンサー(ヴァルチェ)
「そんな冗談」
「俺がそんなコトを言うような奴に見えるか?」
「………」
静かに投げ掛けられた問いに、首を数回横に振ることでやんわりと否定の意を示す。わかっている、この人がこんな心臓に悪い冗談を言えるほど器用じゃないことくらい。そう、頭では理解しているのだ。
だけど肝心の心がこの事態をなかなか理解しようとしてくれない。だからそう、もはやこれは私にとって不可抗力の域なのだ。
「お前が好きなんだ、チェルシー」
まるで何かを促すように擦れた声が私の名前を、想いを再び告げる。その音に呼応するかのように更に大きな鼓動と共に主張を始めたのは紛れもなく私の心臓。
胸の奥が何だか苦しい。
上手く言葉が紡げない。
必死に口を開くも、そこから漏れるのは声とは言い難い空気のみで、それがまた私の心を焦りへと急き立ててゆく。
何か、何か言わなくちゃ。
「あのっ」
「……いや、もういい」
ため息と共に吐き出された言葉に思わず身体がびくり、と震える。
「ヴァルツさん…?」
もはや手遅れだと思った。
怒らせてしまった。呆れられてしまった。次に彼の口から紡がれるのはきっと、煮え切らない態度をとった私への幻滅の言葉に違いないと、そう思っていたのに。
「答えたくないのなら無理はしなくていい」
返ってきたのは予想せぬ言葉。驚いて伏せていた顔を上げれば、優しく、だけど、どこか哀しみを含んだようにヴァルツさんが小さく笑った。
私を映したまま静かに揺れたアメジストの瞳がひどく奇麗で、それがまた私の心を大きく揺さぶり始める。
「驚かせて悪かったな」
バンダナ越しに私の頭を一撫でした後、ゆっくりとぬくもりが離れてゆく。
きっとここでヴァルツさんを見送ってしまえば後悔する。
そう、今思えばそれは本能的な直感だった。
「待って!」
そんな言葉を叫ぶが早いか、必死に手を伸ばして立ち去ろうとする人を捕らえる。振り返ったヴァルツさんが何か言いたげに眉をひそめたけれど、それにさえ気を回せないほどに、もはや私の焦りは天辺など有に越していた。
「行かないで」
我ながら勝手な言葉だと思う。だけど躊躇されることなどなく口から零れ落ちたそれは、明らかに私の心からの気持ちで。
「そんなコトを言われると、自惚れそうになるのだが、チェルシー」
「……いいですよ」
「は…?」
「自惚れて、いいですから」
ポツリ、ポツリと溢れていく言葉。今はまだこの想いがどの部類に入るかは定かでないが、少なくとも私が彼に対して特別な気持ちを持っているという事はおそらく間違いない。確かな根拠があるわけではないけれど、そう思う。
「だから、どこにも行かないでください」
やっと最後まで紡げた言葉。ゆっくりと心の強ばりが解けてゆくのと同時に頬までもが自然と綻んでゆく。そんな私を見て、渋く眉をひそめていたヴァルツさんもまた、稀に見る穏やかな顔で頬笑んだ。
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「なんて事があったの」
「チェルシー、貴方…」
「ねぇ、ジュリア。この気持ちって結局は何だと思う?」
トルゥー・アンサー
(それはまさしく“恋”だと思うのだけれど)
END
*
相互記念のヴァルチェがやっとこさ完成致しました!
大変永らくお待たせしてしまってすいません、笹さま…。
チェルシーが鈍感すぎる気もしますが、そこはご愛敬。青い羽イベントも見事にスルーしていますが、そこもご愛敬。
今思えばこの話って相談にみせかけて惚気られたジュリアさんが一番可哀相な気がする。
書きなおし等は笹さまからのみ受け付けたいと思います!
改めまして、これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
では、長々とお付き合い有難うございました。
2012.2.5 加筆・修正
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