[携帯モード] [URL送信]

牧物
友故に(ニルリオ)
*はじ大 ニルリオ
*ニル→リオ→誰か の救いようのない話
*我が家のリオの瞳は薄紫色



〜〜〜〜〜

「はぁー…」

「おい、リオ。ため息をつくために来たんならもう帰れ」

「少しくらい許してよ、ニールのケチ」


拗ねたように唇を尖らせ、足をバタバタさせる姿はまるで子どものよう。ケチだケチだと連呼する駄々っ子にはホットミルクを差し出せば、すぐに大人しくなる。本当に現金なやつだ。
この方法はリオを黙らせることが出来るが、同時に長居の助長ともなる。いわば諸刃の剣。ただ、この流れもいつものことで、もう慣れてしまった。

何度こんなやりとりをしたことだろう。とりあえず、人付き合いをあまり好まない俺がリオといることを自然に感じるようになるくらいには、繰り返されてきた。だから、リオの盛大なため息の原因だって既に検討はついている。

正直、あまり聞きたくない話題ではあるが。


「で、今日はなんだ。あいつと上手く喋れなかったのか?」

「差し入れを渡しそびれました…」


ガックリという効果音が聞こえそうなほど、大袈裟に肩を落とす。やはり、俺が予想した通り色恋沙汰の話だったようだ。
そんな浮わついた話題は、同じ年頃の女とでもすればいいのに。何故かリオは事あるごとに俺に報告ないし相談しにくる。曰く、余計なことを言わないから一番話しやすいらしい。褒められてるのか貶されてるのか。とにかく、男相手に気軽に恋愛話をしようなんて、たちが悪いにも程がある。



「差し入れなんて、そんなの玄関先に置いてくりゃいいだろ」

「ダメ、直接渡したいの」

「じゃあ直接渡してこいよ」

「それが出来たら苦労しない」

「…お前なぁ、いい加減にしろよ」

「うう、だってー…」



普段の明るさからは考えられないほど弱々しい声で、リオが唸る。俺も本気で怒った訳じゃない、何度もいうがもう慣れっこだ。机に突っ伏した頭を軽く小突き、名前を呼ぶ。

――おい、リオ。もう一杯ホットミルク飲むか?

すると、ゆるゆると上げられた頭が縦に何度か揺れた。どうやら肯定を表しているらしい。ため息と共に空になったマグを2つ抱え、席を立つ。その際に見た藤色の瞳は、嬉しそうにキラキラ輝いていた。無事、リオの機嫌は再浮上したようだ。

他愛ないやりとりを繰り返す内に知った事実。出会った頃には知り得なかった一面。それは、リオが全てにおいて万能である訳ではないということ。
牧場仕事や町作りに関しては、弱音一つ吐かず完璧にこなしてきている。人付き合いだって第三者の俺が見る限り良好、誰とでも宜しくやっている。ただし、色恋云々に関していえば、リオはむしろ初心者以下だ。思ったことが表情に出やすい分、意識しすぎると駄目なんだろう。上手く話せない、恥ずかしくて逃げてしまった等、他にも色々反省を聞かされてきた。今みたいに、安心しきってふにゃふにゃしてる様子とは大違い。ミルクが温まるのを嬉々と待つ顔は、見れば見るほど本当に間抜け面だ。
こんな気を抜ききったリオを見られるのは、今のところ、一番仲のいい友達(らしい)、おそらく俺くらいなんだろう。そう思うと、嬉しいような腹立たしいような、なんとも複雑な心境になる。



「そんなに毎回悩むぐらいなら、いっそ諦めちまったらどうだ」



そうすれば不安定な気持ちに振り回されなくなる。辛くも、悲しくもなくなる。もっと楽で自然体な自分のままでいられる。

無茶な提案だとは分かっていた。気持ちの切り替えなんて簡単にできるもんじゃない。分かっているからこそ、激しい抗議を予想して心づもりをしていたのだけれど。
ホットミルクを注いだマグを抱え、再び席についた俺は思わず言葉を失った。いや、正確には再び席について”リオと顔を合わせて”言葉を失った、だ。

実際、予想に反してリオは怒ってはいなかった。それどころか静かに笑っていたのだ。それも酷く切なさを帯びた瞳で。
急にリオが大人になったような感覚を覚えて、胸の奥が妙にざわついた。何度も繰り返したはずのやりとりの中でも、一度だって見たことがない。

それは、俺の知らないリオだった。


「確かに、どうしようって悩みすぎて泣きたくなることはあるよ。辛いなって感じることもある」

「あぁ」

「でもね、それでもいい。想うことで生まれる痛みも悲しみも、私は全部受け止めたい。それぐらいあの人のことが好きなの、どうしようもなく」

「…あぁ、そうかよ」

「呆れた?」

「まぁ、馬鹿なやつだとは思ったな」

「酷いなー。正直、自分でもそう感じるけど」



苦笑を浮かべて肩を竦めたときには、もういつも通りのリオだった。一瞬、俺の思い違いだったかとも考えたけれど。脳裏に焼き付いて離れない大人びたリオの瞳。あれは、確かに俺の知らない表情だった。やはり、まだ胸の奥はざわついて落ち着かない。



「でもね、きっとニールにも好きな人ができたら分かると思うんだ」



分かってないのはリオの方だ。
そんな身勝手でどうしようもない感情、此方はとっくの昔から知ってんだよ。
知っているからこそ、あえて馬鹿なやつだと称したんだ。

危うく口から出かけた馬鹿な言葉は飲み込んで、ホットミルクごと身体の奥底へ流し込む。横目でそっと盗み見たが、リオの意識は完全にマグに向いている。どうやら俺の動揺は気付かれなかったようだ。聞こえないように、小さく安堵の息を吐く。

そんなこと、言える訳がない。
言ったら最後、俺とリオはきっと今のままではいられなくなる。
リオは苦しみを享受して、心のままに前に進もうとする。
一方俺は苦しみを飲み込んで、バランスを崩さないように今にしがみついている。
俺たちの違いはそこだ。だから差は開くばかりで交わらないし、横にも並べやしない。しかし実際、それゆえに保たれている均衡でもある訳だ。
だから俺は動かない。友達という枠の中に甘んじたまま、動けない。



「だから、いつかニールに好きな人が出来たら私に教えてね」



そのときは協力するよ!
なんて、今日もサラッと酷なことをいう。俺が好きな人をリオに教える日なんて、そんなものは一生こないだろうけれど。わかったと小さな嘘を一つつけば、リオが嬉しそうに微笑んだ。その際ふと胸が痛んだのは、きっと良心のせいだけじゃない。確信にも似た直感がそう告げていた。



友故に

(近すぎて、近付けない)

END




リオが好きなのは多分ロッドくん辺りです、色恋ごとに鈍くて好意に気付かない系男子。
シリーズ化しても楽しそうだなと密かに思ってます。
おそらくあまり書く暇ないですが。

[*前へ]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!