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牧物
Please Call my name!!(マルチェ)


「【しりとり】の【り】からね。りんご」

「【ごま】」

「【マントヒヒ】」

「【昼間】」

「【マジック】」

「【車】」

「うっ…。ま、まー…。あっ、【ママ】!」

「【勾玉】」

「……わざとやってるでしょ」

「何の話かな、チェルシーさん」


じとり、恨めしさを込めて睨むけれど、返ってきたのは優しい微笑み。にこにこと人懐こさや彼の人の良さが滲み出ているその笑みも、残念ながら私には通用しない。

(私だって、学習したんだから)

牧場が大好きで誰にでも親切で、なにものにも別け隔てなく接する。まるで女神さまのように慈愛に満ちた人。

だけど私は知っている。
いつも隣にいる私だけが知っている。
彼は、マルクくんは、ただ優しいだけの男じゃないってことを。


「とぼけても駄目、さっきから同じ文字ばっかり回してるのはわかってるんだから!」

「チェルシーさんこそ、俺の気持ちを知りながらとぼけるなんてひどいんじゃない?」

「うっ…」


痛いところを突かれて、思わず口を紡ぐ。どう切り替えそうか、必死に考えを巡らせる私を余所にテーブルの向かいのマルクくんは余裕の笑みでホットミルクを啜っている。それがまた、様になってるから余計に悔しい。


「だって、私、負けたくないもん」

「でも、賢い君なら、負けない方法があるのもちゃんとわかってるよね?」

「それ、は…」


再び言葉が喉元でつまった。親切に選択肢を与えるふりをしながら、確実に追い詰める。負けず嫌いな私の性質をよく知りながら、ゆっくりと誘導する。彼の笑顔は真実であり、時にまた、それこそが最大の甘やかな罠でもある。

ほらやっぱり、マルクくんは優しいだけじゃない。


「チェルシーさん。さぁ、呼んで?」



私に残された道は限られていると、心地の良い声色が確かに諭す。

さぁ、さいは投げられた。
選ぶは敗北か思惑か。


(私が選ぶのは……)



Please Call my name!!


「マ、【マルクくんが好き】…!!」

「…あぁ、【今日は俺の負けみたいだよ、チェルシーさん】」


END




どうにかして“マルク”と名前を呼び捨てにさせようとするマルクくんと、それをわかっていながらやはり恥ずかしさには勝てないチェルシーさん。
もう少し付け足せば、二人はしりとり中で、マルクくんは“ん”が語尾に付くと負けるというルールを利用してチェルシーの“くん”付けを取ろうとしたんです。(【】内がしりとりの言葉です)
分かりにくくてすいません、策士な灰色マルクが大好きなんです。

読破有難うございました。


2012.2.5 加筆・修正

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あきゅろす。
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