牧物 おいしいプロポーズ(ヴァルチェ) 『牛乳がゆが食べたいんだ』 それが永らく黙りを決め込んでいた彼の第一声だった。 「……どうしたんですか、いきなり」 思わず飛び出したのは間の抜けた声。さっきから一言も話さずに何か真剣に考え込んでいたかと思えば唐突に口を開き、そして更には何の前触れもなく振られたのが牛乳がゆの話題だなんて。いったい私は何を求められているのだろうか。 ヴァルツさんの言葉の意がわからずに首を傾げる。すると、苦々しいような、困ったような、何やら曖昧な顔をした彼が小さく重々しいため息を吐いた。 「だから、俺は牛乳がゆが食べたいんだ」 「レストラン、行きますか?」 「いや、チェルシーの作った牛乳がゆがいい。そうでないと意味がないからな」 「それなら、今から作りましょうか?」 「……今じゃなく朝に食べたいんだ。出来れば、毎朝に」 「……意味が分からないです」 キャッチボールになっていない会話にもはや私は考えることを放棄した。はっきりとしない状況にじとりとした視線を本人に投げ付ければ重なった視線を不自然にふい、と逸らされる。 何だかその態度に違和感を感じてそのままヴァルツさんの観察を続けていると、心なしかその頬が赤らんでいることに、ふと気が付いた。 「ヴァルツさん?」 「だから、だな…。その、つまりは毎朝俺のために牛乳がゆを作ってほしい」 「なんだ、そんなことなら任せてください!お安い御用ですよ」 「なっ…?!そんな軽いノリでいいのかチェルシー…?」 「え。だって、毎朝牛乳がゆを作るだけですよね?」 軽いも何も。 毎朝牧場仕事の為に早起きしているし、特に料理が苦手な訳でもない。更には好きな人直々の頼みごとだ。断る理由なんて見つからないし、むしろ滅多に彼に頼みごとなんてされないから嬉しいぐらいなのに。 どうしてそんなことを言うのかと黙り込んだその人を無理矢理に問いただす。すると、ついにはヤケクソだ言わんばかりにヴァルツさんが懐から勢い良く何かを取り出して、そして私へと突き出した。 「あの、これって…」 「俺と結婚してほしい」 2人の間で揺れるのは、確かに青い色をした羽が一枚。瞬きも忘れて、羽と彼の顔とを交互に見合えばヴァルツさんが居心地が悪そうに一つ、咳払いをした。 『俺の為に毎朝、味噌汁を作ってくれないか?』 こんな台詞はドラマの中だけのものだと思っていた。都会を離れ、牧場の為に遠い地へと赴き暮らす私には無縁なものだと、そう思っていたのに。まさか私に、こんな日が来るなんて。 あまりにも遠回しな言葉。その意を知って苦笑いを零すと同時に、胸の内が溢れんばかりの愛しさに包まれてゆく。 すっかりと耳まで赤くなった目の前の彼に満面の笑みを返して。私は差し出された青い羽を両手で丁寧に受け取ったのだった。 おいしいプロポーズ (味噌汁でも、牛乳がゆでも) (貴方の為になら毎朝作りますとも!) END * 5000hit越え有難うございますな気持ちでフリー配布したヴァルチェ。(フリー期間は終了致しました) 私はどうやらヴァルツさんを相当ヘタレにしたてあげたいらしい。そして今回も微妙に会話が噛み合わなかったヴァルツとチェルシー。何だか最近ヴァルチェの方向性が脱線しかかってる気がしなくもない。気のせいかな。 改めまして、読破&5000hit越え有難うございました! P.S.話の流れと勢いで書きましたが、本来、ゲーム内ではレストランにて牛乳がゆを食すことはできません。 もしも混乱させてしまったならすいませんでした…。 2012.2.5 加筆・修正 [*前へ][次へ#] |