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ボンボンちょこれぇと
多分、好き。
俺にとって一番嫌いな授業は体育だ。

勉強はありがたいことに苦労したことがないが、体育だけは違って運動神経がすこぶる悪いことを証明するようなもの。例えるならどうやっても解けない難解な数式問題みたいなんだ。


でも助かったことに、その授業を受け持つ体育教師のやる気がまったくなかった、ということ。



無気力先生に感謝しつつ、グラウンドの隅に腰掛けてサッカーに興じるスポーツ大好きなクラスメートたちを眺めている俺は暇な時間を持て余していた。



するとジャージのポケットに入れた携帯が震えだす。なんだろう、と携帯を開けば最近よく見かける名前が。びくっと身体が条件反射で跳ねるを感じつつ、通話ボタンを押す。



「も、もしもし…?」



『おう、星か』



この頃、ようやくメールに慣れたばかりだと言うのに電話なんてハードルが高すぎる。変に緊張した耳に直接響く声が受話器越しでも身体を落ち着かなくさせるからとにかく質が悪い。




「篠先輩、突然どうしたんですか…?」




『ん?星が暇そうにしてるから電話した』



「暇そうって…授業中ですよ?」


いきなり何を言い出すのかと思えば暇そうって何。そりゃあ図星だけどさ。俺が授業中ってことは篠先輩も授業中ってことなのに。

…不良には関係ないかもしれないけど。



『ああ、知ってる。でも暇してんだろ?』


「ええまあ…そうですけど」



拗ねた口調で認める俺がおかしいのか篠先輩は喉の奥で笑う。笑い声までイケメンとか卑怯です。



『なら俺と電話するくらいいいだろ。ちょうど、星の声聞きてぇと思ってたんだ』




「っ!…そ、そうなんですか」




声が聞きたい、なんてさらっと言われて平常心を保てるほど甘い言葉にも篠先輩にも免疫はついてない。


理由もわからず熱くなる頬に手をぱたぱた扇ぐ。



「…あれ?でもどうして俺が暇そうなんてわかったんですか?」




『それはあれだ、愛の力ってやつ』



「ぶっ…!?あ、あ、愛っ?!」



突然聞こえた聞き慣れない単語に一瞬携帯を落としそうになった。


あ、愛ってなに!?え?ふざけてるっ?
からかわれてんの!?本気か冗談なのかわかんねーよー!!


さっきよりも更に熱くなった頬を意味もなく手の甲で隠す。じんじんする熱さが余計余裕を奪っていく。



『くはっ…!!』



「!!?」



『はははっ!…星、顔がトマトみてぇになってるっ…!』




「え、なっ、なんで…!?」



いきなり笑い出した篠先輩の言葉に驚く。どうして俺の顔が真っ赤だってわかるんだ?


そこまで考えてはっとする。そうか。篠先輩は俺が見える場所でサボってるんだ。だから暇そうにしてるのも、今顔が赤いのも見えるから知ってる。



「篠先輩、俺が見える場所にいるんですねっ?」



『正解。上見てみな』



「上?…あ!」



きょろきょろ上を見上げると、俺が座る場所から斜め後ろの校舎の屋上。篠先輩が座って手を振っていた。



そこからなら俺がいる場所はばっちり見えてしまうとわかって頭を抱えたくなる。




「…俺のことからかったんですね」



『んなに怒るなよ。可愛いだけだ』



「はぁっ…!?」



篠先輩を睨みつけたら、どうやら俺の表情がわかったらしく歯の浮くような台詞を言われる。


がびんっ!?と音がしそうなほど呆気に取られた俺に気をよくしたのか、篠先輩はまた笑うと甘い口調で喋り出す。




『…林檎みてぇに真っ赤で可愛い』



「っっ…!!?」



『あー…抱きしめてぇなあ』



しみじみ言われて何と反応していいかわからない。



『俺の腕にすっぽり収まんだよな、星は』


「な、な、な…っ!?」



『抱き締めたらちっちゃい身体が余計縮こまってさ。目なんかぎゅーって閉じて、』



反芻するように喋る篠先輩の声が熱っぽく聞こえるのは錯覚だろうか。
恥ずかしさでパンクしそうな俺を置いてけぼりで篠先輩はまだ喋り続けている。




『俺が頭撫でると、安心したみたいに眉間の皺とかが消えんの。あれ、まじ可愛くて堪んねぇ』



み、見られてた…!!
篠先輩に抱き締められた時の様子をそんなに見られてたなんて、今なら羞恥で死ねる!死んでしまえるうぅぅぅ!



『やべ。思い出したら抱き締めたくなってきた』



「しっ、篠先輩っ!!!」



『あ?どうした?』



「っ、い…いきなり何言い出すんですか!!」



半ば叫んで携帯を握り締める俺、半泣き。
そりゃあ最近篠先輩と遊ぶこと多くて、その度にだ、抱き締められたり、とか、手握られたりしてたけど…っ!!


今みたいな甘ったるい声で話さないし、俺のこと可愛いって褒める時もさらっとしてるからこんなの、もう、本当に、無理。



恥ずかしさで恐慌状態の俺はぐすぐす鼻を鳴らして瞳に浮かんだ涙を拭うことに意識を持って行かれ、黙ってしまった篠先輩にも気付かなくて電話口から聞こえた舌打ちにびくっと息を飲んだ。



「っ……篠、先輩…?」



『…星、そこ動くなよ』



不安でひりつく喉からなんとか名前を呼べば、怒ったような不機嫌そうな声でそう告げられて電話が切れた。

突然のことに訳が分からなくて携帯を見つめ首を傾げる。



篠先輩、どうしたんだろ……?













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