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122.戻るべき場所 **


「クフフ。“あれ”は僕の仲間と言うには、出来の悪すぎる子供ですよ」



そう言って僅(わず)かに苦笑を浮かべる骸さん。
“あれ”が誰の事を指しているのか、私には全く見当がつかなかった。



「どちらにせよ、貴方から貰ったダメージは大きかったですよ。――つい先刻まで、こんな事は出来なかった程にねっ」



次の瞬間、骸さんの作り出した幻覚の威力が更に上昇。火柱の高さ・大きさ。全てがそれまでの物とは桁違いに激変する。

しかし、それでも白蘭には通用しないらしく、



「ハハハ♪だめだめ、骸クン。……これじゃあ僕には勝てないよ」



蓮の花の茎(くき)で出来た拘束にも、彼は変わらぬ笑顔で対応していた。



「幾ら本物に近い幻覚とは言っても所詮君は偽の作り物だ。僕に勝って名前チャンを奪いたいなら、少なくとも復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄から抜け出して、君自身の肉体で戦わないとね♪」

「奪う?クフフ。中々面白いことを言いますね」



対する骸さんも笑みを深かめ、白蘭を凝視する。



「名前を手に入れた気になっているのなら勘違いも甚(はなは)だしい」

「…何だって?」

「彼女が誰のモノになるのかを決めるのは、彼女自身です。名前が誰かを選ばない限り、名前は決して誰のモノにもなりませんし、増してや手に入れる何て以ての外だ。僕達は常に“選ばれる側の人間”――なのですよ」



白蘭の表情が一瞬だけ凍り付いたように見えた。その様子を実に愉快そうに眺めながら、骸さんは更に、こう付け加える。



「それにご心配なく。僕が自らの手で直接貴方を倒す日も、遠くはない」



――“我々”は既に動き出している……とだけ言って置きましょう。

意味深な彼の発言に、訝しげな顔をしたのは白蘭だけではない筈。
かくゆう私も、大量の疑問符を浮かべたままだ。

骸さんに真意を問いたい。その一心で、彼の背中に縋り付つけば、骸さんはこちらを振り返り、私の頬を優しく撫でた。



「もう直ぐこの手で…貴女を抱き締められます」



有幻覚で作られた自分ではなく、本物の自分で。

それはつまり本物の骸さんに会えると言う事。嬉しさの余り、またしても涙が溢れそうになった。
けれど、それを必死に堪え、私は笑顔を作る。


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