全部、……夢…。
夢だったら、どんなに良かっただろう。
――ねえ、雲雀さん
私の知ってる貴方は
何処に居るんですか?
重い瞼を開けると目の前に広がるのは白い天井。そして傍らには…、
「名前…」
獄寺さんの姿。漂う薬品の臭いに此処が医務室だと理解する。
どうして私医務室に?
「身体、平気か?」
心配そうに顔を覗き込む獄寺さんに私は小さく頷いた。もしかしてずっと傍に居てくれたのかな。
ぼーとする頭で何とか記憶を手繰り寄せる。蘇るのは『トンファーを構える』雲雀さんの姿…。
(夢じゃ…ないんだ)
“殺される”。
あの時、本気でそう感じた。本気で雲雀さんを…怖いと思った。
再び瞼を閉じる。その瞬間、脳裏に浮かんだのは傷だらけの…仲間達。
(そうだ!皆さんはっ)
私はガバリと起き上がり獄寺さんに詰め寄った。『山本さん達はどうなったんですかっ!!』そう問おうとしたのに…、
「 」
――声が、出ない。
頭の中が真っ白になった。どうして?どうして声が出ないの…?必死に声を出そうと試みるも、口が開閉するだけでそこから音は出てこなかった。
「おいっ名前!」
獄寺さんもその異変に直ぐに気付いた。肩に手を置き、身体を揺する。けれど『獄寺さん』と唇を動かすだけの私を見て。
「お前…まさかっ…」
――声が出ないのか?
その問い掛けに私は頷く事も出来なかった。
◇ ◇ ◇
その後、直ぐにシャマル先生が駆けつけて来て、私は精密検査を受ける事になった。
『ボンゴレ(うち)は医療設備が整ってるんだ』
何時だったか沢田さんに聞いた事があるけれど正直、此処まで充実してるとは思わなかった。部下の人を大切にする、沢田さんらしい配慮だな。
検査終了後、私は獄寺さんと共に医務室に戻った。獄寺さんが傍に居てくれてほっとしてる。私一人だったらパニックに陥ってどうすれば良いのか分からなかったから。
声には出せないけれど感謝の気持ちを伝えようとした瞬間。扉が開いて、
「名前さんっ!」
勢いよく飛び込んで来たのはランボ君だった。
[←][→]