まさかこの人に先を越されるとは思いもしなかった。…正直、悔しくて仕方ない。だからこそ、帰って来たら一番に伝えよう。『お前の笑顔が見たかった』と。彼女はどんな顔をするだろうか。きっと恥ずかしそうに頬を染めるんだろうな…。
想像するだけで笑みが零れる。ふっと口元を緩めた時だ。名前が車の窓を叩いた。遠慮がちにコンコンコン、と…。
エンジンを掛けていた部下に待つよう伝えて綱吉はスッと窓を開ける。
「どうかした?」
「言い忘れた事があって」
「???」
「沢田さん…、雲雀さん…、いってらっしゃいっ。頑張って下さいね!」
それは彼女が見せてくれた最高の笑顔。一瞬言葉を失う綱吉。それは雲雀も同様だ。二人はちらりと顔を見合わせ、ふっと口角を上げる。そして、
「「行って来る…」」
名前にそう告げたのだった。
けれど、名前と交わしたこの会話を最後に、綱吉と雲雀が彼女の元に戻って来る事はなかった。
前 兆
(それが、これから起こる“悪夢の序章”…)
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