小説
海のその向こうには
「……エース、」
時刻は午前2時
ルフィは暗い部屋の中でぽつりと呟いた。
すぐそばで寝ているハンコックを起こさないように、そっと立ちあがって窓から夜の海を眺めた。
ふと帽子にはさんである1枚のビブルカードを取り出す。
「……」
もらったときには結構な大きさがあったその紙は、今や4分の1の大きさにも満たない小さな紙きれになってしまっていた。
「エース……無事なのか…?」
兄であるエースが処刑される日まであと5日。
あの強いエースが捕まってしかももうすぐ処刑される、なんて最初は信じられなかった。
でもアラバスタでエースからもらったビブルカードを見た途端、これは現実なんだ、という事が嫌でも理解できた。
──あれほど体中の血の気が冷めていくのを感じたことはなかった。
今まで以上にエースの顔が頭から離れなくなった。
──『そいつを持ってろ。ずっとだ!』
『出来の悪い弟を持つと…兄貴は心配なんだ』
『次に会う時は 海賊の高みだ』
「…おれだってエースのこと心配してたさ」
キュ、とビブルカードを握りしめる。
「でもどうせいつかまた会えるから、元気なエースに会えるから…そう思えたからおれはここまで来れたんだ」
窓の向こうにある真っ暗で静かな海を見つめた。
「エース……待ってろ。今おれが助けに行くから。そんでまた海に出よう、だから……」
「…死ぬなよ…、エース…」
頼むから無事でいて
会ったときには、いつもみたいに笑ってて
絶対助けるから──
つぅ、とルフィの瞳から一筋の涙が流れた。
「エース……」
しばらくの間、ルフィは真っ暗で静かで、まるで闇のような海を眺めていた。
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