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笛を吹いて出会ったのは
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朝食。作ったのは和食。
ご飯と味噌汁と焼き魚と卵焼き。定番すぎるけど、楽だしお腹にちゃんとたまるし。
魚が少し臭うのが、面倒。そこまで気にするほどじゃないけどね。

「…今日は、部活ないの?」
「いえ、今日は午後からなんです」

すっと卵焼きを箸で割って口に持っていく。ゆっくり咀嚼されていく卵焼き。
うんうんと頷いていた京…は、私にふっと視線をくれて。

「おいしいですね。私、卵焼きは塩じゃないとダメなんですよ」

私の好みにぴったりです。
なんだか目を逸らしてしまった。
卵焼き、塩派でよかったと思ったのなんて初めてだ。

少しくつろいでいると、彼女は突然立ち上がって洗い場へ行ってしまう。

「あーいいよ、置いといて」
「いえいえ、ひとつくらい何かしないと気が済みません。だから、これだけさせてください」

こちらに振り向いた彼女は苦笑いをひとつ。私の返事を聞く前に洗い物を始めてしまった。

「…おまかせしまーす」
「はい」

小さな声にも関わらず、彼女は私の声を拾ってくれた。

さー、と水が流れる音。カシャンカシャン、と食器がぶつかる音。
…洗い物してる音って、すごく眠気を誘われる。
ソファーにもたれて、彼女の背中を見ながら思った。綺麗な背中してるんだろうな。
…朝からなに想像してるの私。
いや、そんな、やらしい意味とかじゃないけど…あぁ、言い訳っぽくなってきた。というか、背中でやらしいってどんなの?
そもそも、私は彼女のことを意識し過ぎだと思う。頭の中で名前を呼ぶのも、なんだか、難しいし、なるべく名前を呼ばないようにしているし。名前を意識するなんて、私は小学生? 中学生? 高校生? …とにかく子供か、って。
呼ばせる彼女も、なかなか子供だと思うけれど。
おかしな話だなあ。出会ってまだ一週間だ。たった一週間の内に、どうしてこんなに彼女を意識しているんだろう。
夢が原因に違いない、と言い聞かせても、全く私の心臓は仕事を怠ろうとはしない。
これだけあべこべに考えて(主に動揺だけど)、私が思い付いた仮説は2つ。
ひとつは、単なる意識のし過ぎ。
私はそうであって欲しいんだけど、どうだろう。
ふたつめには、

「優美さん?」
「へ?」

突然至近距離から聞こえた声に、知らず知らず閉じていたまぶたを開いた。
…なんということでしょう。
本日2度目の美人さんのアップです。

「洗い物終わりましたよ」
「あ、ああ、うん。ありがとう」
「こちらこそ、ごちそうさまでした」

静かに微笑んだ彼女はすっと立ち上がって、伸びをした。その拍子に彼女のTシャツの裾がめくれて、おへそがちらりと覗く。
見てはいけない物でも見てしまったように、私はすぐに視線を逸らした。

「では、そろそろ帰りますね。昨日今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。迷惑掛けた上に鞄まで。楽しかったよ」

話をしながら玄関へ向かう。
がちゃりと扉を開けた彼女は何かを思い出したように振り返った。
忘れ物でもしたのかな?

「…また、来てもいいですか?」

あんまりに真剣な顔でそんなこと言うから、私はぽかんとしてしまった。この人やっぱり面白い。そして可愛い。

「いいに決まってるでしょ」

笑いかけると彼女も堅かった表情を柔らかくしてくれた。

「では、またメールします」

そんな言葉と一緒に伸びてきた左手は、私の頭をくしゃりと撫でた。
かちゃんと閉まった扉を3秒程見つめてから、自分の頭に手を置く。

これだけ私が彼女を意識している訳。
仮説のふたつめ。

私は、彼女に恋をしたのかもしれない。



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