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笛を吹いて出会ったのは
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ひったくりから鞄を守ってもらった月曜日はもう4日前になる。
つまり今日は金曜日。なかなか沈まない日が沈んで、カーテンからはぼんやりと街灯の光が差し込むだけ。
仕事から帰って、電気が点いていない家がこんなに寂しいものなのだと改めて思った。

平井さんとはあれ以来偶然会ったりはしないけど、今日はメールのやり取りを少しした。
内容は明日のことで、夜、私の家に来てもらえるよう連絡を入れた。
休日の朝は弱いから、食事をお昼に間に合わせることが出きるか不安だし、それに、平井さんも朝は部活を見に行かなければならないらしい。
…お酒とか用意してみたけど、飲むかな。
何せ知り合ったばかりで、平井さんのことをあまり知らない。私が知っている平井さんのことといえば、黒髪眼鏡美人で、背が高いこと。あとは職業と年と合気道をしていること。オムライスが好き。
その程度で。
平井さんのことを知りたいという欲求がこの一週間で高まっていた。



日付変わって土曜日。の、夜。

「こんばんはー、平井です」

チャイムが鳴った後聞こえたのは、なんとなくテンションが高そうな声。本当に、些細な違和感だったけど。私の中で平井さんは、常にどこか脱力しているイメージだ。扉を開けて平井さんを招き入れる。
靴を脱いだ彼女が口を開いた。

「あ、美味しそうな匂いですね」

振り返ると平井さんは匂いを嗅ぐ素振りをしていて、私の視線に気付くとへらりと笑った。
…こんな顔もするんだ。

「まだ出来てないんですよ。まぁあとは卵で巻くだけなんですけど」

平井さんに座るよう促した後、卵用のフライパンを引っ張り出した。
それを温める少しの間、彼女を見詰める。
少し大きめだろう黒一色のTシャツにジーンズ。
下ろしている黒髪が服に溶けて。
もし髪が短かったら、ぱっと見男の人に見えるかも。
似合ってないようで、似合っている。
きっと、なんでも着こなしてしまうだろう彼女の容姿。とても勿体無いと思う。
色んな姿を見てみたいから。…あぁ、何か変だなあ。
十分に温まったフライパン。

「平井さんは卵、半熟がいいですか?」

たまに、こういうのにうるさい人が居るから聞いておく。
振り返って平井さんを見るとすぐに眼鏡越しに目が合った。

「あー、…悩むなぁ。笹川さんが得意なのは?」
「…半熟、かな」
「じゃあ半熟でお願いします」

平井さんが立ち上がって、フライパンを覗きにくる。私が手を伸ばしてもぶつからないぐらいに距離は取ってるけど。

「何ですか?」
「少し見学を」

…視線がプレッシャーになる。そんなこと、全然考えてないんだろうなあ。
まあ、今まで通りに巻けばいい。



「ハートを描かれたオムライスを作ってもらえる日がくるとは」

無事に卵も巻けた。遊び心でそこにハートを描いた。

「ごちそうさま、おいしかったです」

にこりと笑いかけてからすっと平井さんは立ち上がって、私と彼女のお皿をさらって洗い場に持って行ってしまう。
そのままお皿を洗い出してしまいそうだったから、声を掛けた。

「あ、すみません。そのまま置いてて下さい」
「でも、作ってもらっちゃって」
「これはお礼ですから、最後まで私にさせて下さい」
「…了解です」

大人しくこっちに戻ってくれた平井さんと入れ違いに私は立ち上がって、お酒を取り出した。

「平井さん、お酒好きですか?」
「大好きです」

思わぬ即答にくすりと笑うと、彼女はかあっと顔を赤くして、恥ずかしそうに俯いてしまった。
そんな可愛らしい様子にも、彼女に気付かれないように私は笑った。




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