笛を吹いて出会ったのは
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その日、私が家に着いたのは9時頃。
これまたタイミング良く、私がアパートに着くと、丁度平井さんが自分の部屋へ入る所だった。
「平井さん」
見かけた瞬間にはもう声を掛けていた。
「…あぁ、こんばんは笹川さん」
私の部屋は2階だから、平井さんの部屋も2階にある。
平井さんは今、私を見下ろしていた。
私は急いでかんかんかんと派手な音がする階段を上がって、平井さんの所まで行った。
「どうしたんですか、そんなに急いで」
そう言えばそうだ。私は何故か、異様にテンションが上がっている。新しい友達が出来るかもしれないから、なのか。それとも…。
「特に理由は、ないです」
とりあえず曖昧に笑っておく。平井さんは首を傾げた。美人なのに可愛いなんて、なんだか卑怯だと思う。
「えーと…そう、朝の事が気になって」
平井さんは朝?と、今度は反対側に首を傾げた。
「学校がある、って…」
「ああ、そういうことですか。私、高校の教師やってるんですよ」
「え、先生を!?」
目を大きく見開いたと思う。
「これも意外ですか?」
「いやー、まぁ」
言われてみると意外、という感じはしない。頭が良さそうな雰囲気はあるし。科目は…何と言われてもああ、と納得しそうだ。
「大変そうですね」
「やりがいはありますよ。みんな元気が良くて、こっちも元気もらえますし。…まぁ、年を感じさせられたりもしますけど」
「おいくつなんですか?」
口に出してから失礼だったかな、と口を手で塞いだ。平井さんはくすりと笑ってから24です、といった。
「何月生まれですか」
「4月です」
今は7月。ちなみに、私の誕生日は9月。今年25歳になってしまう。
つまり。
「私ひとつ上…」
「えっ。私、てっきり21歳ぐらいなのかと…」
その場で膝を着きそうになった。
いや、若く見られるっていうのは良いのかもしれないけど。よく子供扱いされるからか、素直に喜べない。
子供っぽく見えるのかなあ。
「うー…でも、もう年下の人に先生が居る年なんですねー」
「あはは…と、少しだけ仕事を持ち帰っているので、今日はこれで失礼させて頂きます」
持ち帰りの仕事って、小テストの丸付け、とかかな。
別れる前に、と言っても2人とも家は目の前だけど、少しだけ勇気を出して携帯の番号とメアドを聞いた。妙に緊張した。
それじゃあ、と言った平井さんの右手がすっと私の頭の上まで伸びて、触れる前にぴたりと動きが止まった。
「平井さん?」
「頭撫でられるの、いやですか?」
そんな質問にふっと笑ってしまった。昨日と今日で2回もしていることなのに。私が年上だから、一応聞いてくれたんだろう。
結局、子供扱いだけど。
「全然、なんていうか、慣れてるんで」
「そう、ですか。じゃあ、遠慮なく」
ぽん、と置かれた手が温かい。
このシーンを誰かに見られていたら、どんな関係に見えるんだろう、と撫でられながら思った。
姉妹、かな。
私が妹に見えるんだろうけどね。
その後、微笑みながらのおやすみなさいを聞いて、今夜はよく眠れそうだと思った。
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