[携帯モード] [URL送信]

笛を吹いて出会ったのは
24


私の頭の上で激突した2つの手は、その持ち主たちの間で行われた目配せのあと、静かに引っ込んでいった。

「優美さんと赤石さんは、どれくらいの付き合いなんですか?」

京がしっかり、赤石さんを見つめながら質問をする。
京の目は、難しい目だった。
親しくなりたい、ような、そうでないような、けれど決して嫌っている訳ではなくて。
これは私の感じ方でしかないけど。

「笹川が入社してからだから…四年目ぐらいか?」
「そう、ですねえ」

ああ、もう四年になるのか。いや、まだ四年、と言うべきだろう。社会に混ざって、働きだして。
18から20までは、バイトをしていた。気の合う仲間たちと楽しくわいわいと。21になる年に、ここに入社した。

「いいなあ」
「いいって?」
「ああ、いや、なんていうか…職場に長い付き合いの人が居るのは、なんだかいいなあ、と」

働き続けてたら、そんなのは普通のことなんでしょうけど。
京はしみじみそう言った。

「平井さんは、学生?」
「あ、いえ、これでも教師なんです」
「ピカピカの一年生なんだよね」

そう言って笑いかけると、何故か顔をさっと逸らされた。



注文したものを運び、それをさっと食べると、私たちはそれぞれの職場に戻った。
京は別れ際に、私の髪をくしゃりとは撫でなかった。
ただ、赤石さんの目をじっと見ていた。それはたったの2、3秒のことだっただろうけど、何か意味を含んだような、そんな目が私は気になった。

会社に戻って、仕事が終わると、赤石さんが私の方にすっと歩いてきた。
そのまま流れで、一緒に帰る。とはいっても、私は自転車で、赤石さんは車だから、すぐにお別れだ。

「平井さん、だったよな」

ふと赤石さんが、世間話の間に忍ばせた話題。
声が少しだけ緊張しているように感じたのは、気のせいだろうか。

「え、あ、ああ、そうです。平井 京子さん」
「すっごい美人だった」
「ええ」
「今度、3人で酒が飲みたいな」
「…そうですね」

どうしてだか、そう返事をするのが精一杯だった。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!